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当店スタッフがシチズン本社の開発陣にインタビュー

2022年某日、シチズン本社から腕時計の開発に携わる3名のスタッフの方にお越しいただき、当店シチズン担当者との意見交換および対談の機会が設けられた。

当店スタッフのシチズンコレクションに関する疑問にもお答えいただいたので、当記事で対談の内容を要約してご紹介する。

 

流行の移り変わりとシチズンウォッチの展開について

スタッフの方々との対談ではブランドと正規販売店のそれぞれの立場から、シチズンを含めた腕時計全般の情報共有がなされた。

その際、シチズンの新作機械式時計についてや、腕時計におけるデザインのトレンド、購入年齢層の変化などが話題に挙げられた。

十数年ぶりの新作機械式コレクション

2021年、シチズンは十数年ぶりの新作機械式モデルとして、「Cal.0200」と新生「シリーズ8」を発表した。Cal.0200はフラグシップシリーズである”ザ・シチズン”に新たに追加された機械式モデルで、シリーズ8は過去に発売されていた同名シリーズの新作にあたる。

ザシチメカニカルの写真

長らく登場していなかった新作機械式モデルながら、この2つは非常に完成度の高いシリーズとして話題を呼んだ。
第2種耐磁をはじめとした高い実用性とシーンを選ばないモダンスタイルを備えるシリーズ8に、スイスの名門「ラ・ジュー・ペレ」との協業で最先端のムーブメントを搭載したザ・シチズンメカニカル。この2モデルの登場は、クォーツ式が主体であったシチズンの上位ラインに新風を巻き起こしたリリースであった。

series8のバリエーションモデル

 

デザイン重視の流行とシチズンウォッチ

そして近年の高級腕時計市場では、ラグジュアリースポーツウォッチが一大ジャンルとなりつつある。その名の通り高級志向のスポーツウォッチを指す言葉であるラグジュアリースポーツウォッチだが、そのデザインは千差万別。
ただし、ブランドの技術力を証明する上質な仕上げのステンレス(もしくは貴金属)ケースと、ラグの無い流れるようなフォルムがその代表格とされている。

ザ・シチズンメカニカルのウォッチデザイン

これを踏まえて、ザ・シチズン メカニカル「Cal.0200」のデザインに注目してみると、洗練されたデザインの中に、一体化ケースに始まるラグジュアリースポーツの要素が見て取れる。
過去に発売された自社ウォッチ「クリストロン」を連想させるそのスタイルは、少なくとも従来のクォーツシリーズとの差別化に成功したと言えるだろう。

クリストロンのウォッチデザイン
1974年に登場したシチズン「クリストロン」

事実、このザ・シチズンメカニカルは新たな客層の獲得に繋がり、発表から一年以上経った現在でも品薄の続くスマッシュヒットモデルとなっている。

また、このラグジュアリースポーツウォッチの台頭は、言い換えればデザイン重視の腕時計選びが増えたことも表している。

四季借景シリーズ

その点で言えば、シーンを選ばないモダンスポーティデザインの新生シリーズ8や、ラグジュアリースポーツの一端を見せるCal.0200、色鮮やかな年差±5秒モデルである四季借景シリーズなど、我々は非常に多岐に渡るシチズンコレクションの中から自分好みのデザインを選ぶことができる。

シチズンの高級ラインが持つ、ドレス、カジュアル、スポーツに振り切らないこのデザインコードは、モットーである「先進性」を体現する要素のひとつと言えるだろう。

自社ブランド「カンパノラ」について

コスモサインのコンセプト画像

今回の対談では遊び心あふれる自社ブランドである「カンパノラ」についても議題に挙げられた。
カンパノラは、「時を愉しむ」をモットーにしたシチズンとは異なる方向性のクリエーションが魅力のブランドである。

ここ数年で言えば、デザインコンセプトである「宙空の美」を体現する「天満星」「天彩星」に加えて、カンパノラ初のコンプリケーションモデルとして登場した「グローバルアートコレクション 天・地」の登場が記憶に新しいだろう。

特にグローバルアートコレクションは、同ブランドの一大シリーズである「グランドコンプリケーション」がクォーツムーブメントを使って複雑機構を再現しているのに対し、機械式のトゥールビヨン機構を搭載することで新たなシリーズを確立した。

 

当店スタッフからシチズン開発の方々への質問

スタッフとの対談風景

ここからは、シチズン開発陣の方々への質問とその回答についてまとめた。

 

カンパノラの機械式モデルとしてトゥールビヨン以外の複雑機構が登場する可能性は?

天地のコンセプト写真
2022年、カンパノラから発表されたグローバルアートコレクション「天」「地」には、スイスの名門ラ・ジュー・ペレ社の協力のもと、ブランドの機械式モデルとして初のトゥールビヨン機構が搭載された。その文字盤にはブランドを象徴する漆塗りが使われており、腕時計の最高峰技術と日本の伝統工芸が融合した珠玉のコレクションとなっている。

 

「カンパノラのアイデンティティの1つに、メカニカルの複雑機構を独自のクオーツ技術によって再現するというものがあります。そのため、改めてメカニカルのコンプリケーションモデルを開発することは、カンパノラにとって大きなチャレンジになるかと思います。」

グランドコンプリケーション20周年限定モデルの画像
カンパノラのメインコレクションの一つである、グランドコンプリケーションシリーズ。複雑機構であるミニッツリピーター、ムーンフェイズ、パーペチュアルカレンダー、クロノグラフの同時搭載をクォーツムーブメントで実現したハイスペックシリーズだ。

 

「ただ、個人的には、ケース、ムーブメント、バンドと、腕時計を構成するすべての部品に国産のものを使ったコンプリケーションモデルを作ってみたいという思いもあります」

 

「宙空の美」というコンセプトと漆文字板の
組み合わせはどのようにして決まったのか?

「そもそも、宙空の美というコンセプトは、カンパノラ立ち上げの最初期に決められたものでした。オーセンティックな腕時計らしいスタイルとは違う”遊び時計”を作ろうと考えた時、ダイアル内に空間を作成することを思いついたのです」

宙空の美のコンセプト画像
宙空の美をコンセプトとするカンパノラコレクションは、ドームガラスが多く採用されるだけでなく、立体的な表現や一味違う文字盤表現が多く盛り込まれている。

 

「一方、漆塗り文字盤を使うようになったのは、シチズンを代表する機能である”エコ・ドライブ”の存在が大きく関係しています」

「シチズンのエコ・ドライブは光で発電するというその仕様上、文字板に透過性の高い素材しか使えません。しかし、カンパノラはエコ・ドライブの搭載が必須ではなかったため、文字板を自由に装飾することが可能でした。そこで、遊び心の表現としてさまざまな伝統工芸の採用を検討した結果、漆塗り文字盤を使うことになったのです」

天彩星、天満星の画像
現在ではベゼルにエコドライブを搭載したリングソーラータイプが登場したことにより、天彩星、天満星のように、文字盤の自由度の高さとエコ・ドライブを両立したモデルも登場している。リングソーラータイプのエコ・ドライブには文字盤から風防まである程度の高さが必要となるが、ダイアル内を立体的な造形にすることでこの高さをカバーした。

 

「そういうわけで、”宙空の美”と”漆塗り”は意図して合わせられたわけでは無く、最適解を選び続けた結果、今のスタイルに落ち着いたというのが正しいと言えます」

 

ザ・シチズンにはなぜ和紙が使われるようになったのか?

ザ・シチズン藍染モデルの写真
2022年11月には、土佐和紙文字板を阿波藍で染め上げた年差±5秒モデルが登場する。2つの四国の伝統工芸が取り入れられたモデルは、凛としたジャパンブルーで手元を彩る。

 

「ザ・シチズンに向けてさまざまな文字板素材を検討しましたが、光の透過や見た目の美麗さ、個性という観点から、和紙は非常に理想的な素材でした。中でも、高知県原産の土佐和紙は日焼けなどによっても変色しにくいという特長があり、文字板として使う際にUVカットを施した板でカバーすることで、経年変色、劣化を抑えることに成功したのです」

UVカバーされた和紙の図
90本限定で発売されたザ・シチズン年差±1秒モデルでは、プラチナ蒔絵を施した和紙を上からカバーする構造によって美しさが色褪せないようにしている。

 

「本音を言えばこのカバー無しで、直接和紙を見せることができれば良いのですが・・・。そちらは追々ということで」

「ちなみに現場の裏話ですが、ほつれたりはみ出たりした和紙のカットには、女性用の産毛カッターが使われているそうです。こういった現場の細かな工夫が、和紙文字板の表情付けに一役買っているというわけです」

 

まとめ

今回、お忙しい中、シチズンの開発陣の方々にお越しいただき、非常に貴重なご意見をいただくことができた。

腕時計という高級品を正規販売店で取り扱うということは、ただ機械的に商品を売るのではなく、そこに込められた想いや開発陣の方々の創意工夫を重んじ、その魅力を余すことなくお客さまに伝え販売することこそ理想ではないだろうか。

今回の対談ではそういった販売員の基礎を再確認する機会を頂いたと考え、日々の業務に邁進していく所存である。