多くの方が腕時計を購入する際、ブランドやデザイン、スペックなどをチェックするかと思いますが、その際には、実用性に大きく関わるパワーリザーブも注目すべきポイントとなります。
本記事では、購入前に知っておきたい、このパワーリザーブの概要やメリット・デメリット、注意点について解説いたします。
また、当記事では、7大複雑機構のひとつであるパワーリザーブインジケーターにもスポットを当てて解説いたします。その他の複雑機構やロングパワーリザーブが魅力のオススメモデルもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
パワーリザーブとは
パワーリザーブとは何かをご紹介する前に、まずは機械式腕時計の動く仕組みを理解しておきましょう。
機械式腕時計は「自動巻き」と「手巻き」の2種類に大きく分類できますが、いずれも巻き上がったぜんまいがほどける力を動力源としています。
もちろん、このぜんまいはほどけてしまうと動力を供給できなくなるため、放置しているといずれ時計が止まってしまいます。そしてパワーリザーブとは、完全にぜんまいを巻き上げた時、最大でどのくらいの間、時計が駆動し続けるのかを表したものになっています。
一般的に機械式腕時計のスペックには「パワーリザーブ:約〇〇時間」と表記されているため、この表記を見たら大まかに「腕時計のぜんまいを巻いておけば、およそ〇〇時間は持つのだな」と理解しておくとよいでしょう。
近年では、時計製造技術の発展に伴い、このパワーリザーブがどんどん改良されています。現在、一般的には40時間〜60時間前後のものが多いですが、いわゆるロングパワーリザーブと呼ばれるモデルは、72時間(3日巻)〜120時間(5日巻)も珍しくなく、中には8日巻、14日巻といったモデルも存在しています。
7大複雑機構とは
腕時計の「7大複雑機構」とは以下に示す、腕時計愛好家の心を魅了してやまない高い技術力を要する機構です。
・永久カレンダー
・トゥールビヨン
・ミニッツ・リピーター
・スプリットセコンド・クロノグラフ
・レトログラード
・ムーンフェイズ
・パワーリザーブインジケーター
各機構の概要や特徴を見ていきましょう。
・永久カレンダーはパーペチュアルカレンダーとも呼ばれ、一部のブランドのフラッグシップモデルに搭載されます。腕時計にはカレンダー機能が搭載されているモデルはいくつかありますが、基本的に31日に満たない月や閏年は手動での調整が必要となります。一方で、永久カレンダーを搭載したモデルなら、30日までの月と31日までの月を判別し、自動で調整してくれます。
・フランス語で「渦」を意味するトゥールビヨンは、7大複雑機構でも特に高い技術力を要する機構です。トゥールビヨン搭載モデルでは、腕時計の向きで変わる重力の影響(=姿勢差)を緩和し、時計の精度が一定に保たれるようになっています。
・ミニッツ・リピーターは、音で時刻を把握できる機構です。永久カレンダー・トゥールビヨンと併せて、3大複雑機構に数えられることもあります。
・スプリットセコンド・クロノグラフは、時刻を計測できるクロノグラフモデルの中でも、スプリット(ラップ)計測できるモデルのことを指します。
・レトログラードは、通常の腕時計が一方向に円運動をしながら時間を刻むのに対し、扇型に配置された目盛りに沿って針が動くようになっています。そして、端まで進むと瞬時に0の目盛りに戻ってきます。
・ムーンフェイズは、月の満ち欠けを表す機構です。月の周期を29.5日とし、その倍数となる59個の歯車と、月が描かれたディスクを用いることで、月の満ち欠けを表現してくれます。
パワーリザーブインジケーターについては、次の章で詳しく見ていきましょう。
パワーリザーブインジケーターとは
通常、パワーリザーブの見た目は目視できません。そのため特に手巻きの場合、いつ切れるのか分からないという不安を抱えるでしょう。
この問題に対し、いくつかのモデルには、パワーリザーブインジケーター(power reserve indicator)と呼ばれる、残りの駆動時間を確認できる機構が搭載されています。
この機能を使えば、巻き上げ残量を確認することができるため、動力切れを防止できるだけでなく、必要以上にぜんまいを巻き上げた際に起こる「ぜんまい切れ」を未然に防ぐことができます。
ぜんまいとパワーリザーブの関わり
パワーリザーブは、当然ながら、動力源となるぜんまいに左右されます。ここでは、ぜんまい周りの詳細な構造を見ていきましょう。
リューズを巻くと複数の歯車を介して、香箱の中に納められているぜんまいが回り出します。ぜんまいはコハゼと呼ばれるストッパーにより、一方方向にしか回転できない仕様になっています。この動力がぜんまいの輪列に伝わり、時計が動くという仕組みです。
モデルによってこの主ぜんまいの長さが異なるため、パワーリザーブもモデルによって差が生まれるわけです。
なお、長年腕時計を使っていると、パワーリザーブが短くなる場合があります。
その確認には、まずぜんまいを最大まで巻き上げてみてください。もし、公式の情報よりも短い時間しか駆動しないのであれば、部品同士の摩擦で摩耗し、ぜんまいの巻き上げ効率が落ちている可能性があります。公式のメンテナンスサービスを依頼し、潤滑油を差したり、部品の消耗が激しい場合は部品を交換したりするなどの対策をすべきでしょう。
ロングパワーリザーブのメリット
パワーリザーブが長いと、特に手巻き式の場合、ぜんまいを巻き上げる頻度が減ります。動力源となるぜんまいは、力が解放されるごとに徐々に精度が落ちていくので、頻繁に巻かなくて済むロングパワーリザーブタイプなら、安定した駆動を得られるでしょう。特に、高い精度が魅力のモデルであれば、その精度をなるべく維持するために、できるだけ長いパワーリザーブが欲しいところです。
また、自動巻モデルであれば、70時間ほどのパワーリザーブがあれば便利です。一日中着用していれば、金曜日の夕方に腕時計を外した場合でも、月曜日の朝まで腕時計が動き続けてくれます。朝にぜんまいを巻き上げる必要がないため、ビジネスパーソンには嬉しい性能となるでしょう。
またパワーリザーブインジケーター搭載のモデルなら、見た目も楽しめます。駆動時間が直線的に表示されるモデルもあれば、扇形になっているモデル、文字盤の裏側に表示されているモデルもあるなどそのデザインは多種多様です。インジケーターを眺めながらぜんまいを巻き上げるのも腕時計の楽しみのひとつとなるでしょう。
パワーリザーブのデメリット・注意点
メリットで挙げたロングパワーリザーブタイプは便利な分、デメリットも存在します。
それは、相当な長さのぜんまいを収納するために、必然的に香箱が大きくなり、ケースサイズが大きくなる点です。
また、ぜんまいを長くするために複雑な構造が採用された場合、使用する部品も必然的に多くなります。腕時計は部品点数が増えれば増えるほど、それに応じてトラブルが生じるリスクも高まるため、注意が必要です。
当店でご購入された腕時計でトラブルが発生した際は、ぜひ一度ご相談くださいませ。
ロングパワーリザーブを搭載したおすすめモデル3選
ここからは、ロングパワーリザーブが魅力のコレクションや、パワーリザーブインジケーターが搭載されているおすすめモデルを、3つご紹介します。
・グランドセイコー 9Sメカニカル
・グランドセイコー SBGR307
・オメガ スピードマスター ブルー サイド オブ ザ ムーン
グランドセイコー 9Sメカニカル SLGC001
ブランド力に磨きをかけるべく、セイコーから独立したグランドセイコー。そのセイコーが送り出す「SLGC001 Grand Seiko グランドセイコー 9Sメカニカル」は、ブランド史上初の機械式クロノグラフモデルです。これまでのクロノグラフのムーブメントはスプリングドライブが主流だったので、大きな話題を呼びました。
SLGC001には、グランドセイコーが新たに開発した機械式クロノグラフムーブメントである「TENTAGRAPH(テンタグラフ)」が搭載されています。この名前は、ムーブメントの持つ3つの性能「TEN beat(10振動)」「Three days(3日間持続)」「Automatic(自動巻)」をもじったものです。
10振動とハイビートタイプの当モデルは、平均日差+5秒~-3秒と正確で安定した計測が可能です。計測器としての一面もあるクロノグラフモデルにおいて、これほどの高い精度を誇る当モデルは、機能を求める時計愛好家の心を魅了し続けます。リズミカルに進む秒針を眺めると、何度でも計測したくなる気持ちにかき立てられるでしょう。
またぜんまいを納める、機械式腕時計の動力源となる機構である香箱を2つ備えた当モデルは、トルク供給の安定性を維持しながらも、歯車への負担を軽減しています。これにより、10振動のメカニカルクロノグラフムーブメントとしては世界最長となる、約72時間のロングパワーリザーブを実現しました。
機能面だけでなく、見た目も優れているのが当モデルの特徴です。グランドセイコー独自のデザイン文法「エボリューション9スタイル」をベースに、スポーティーなデザインに仕上がっています。動きながら使用することが想定されているので、直感的に操作できるでしょう。
グランドセイコー 9Sメカニカル SLGC001の詳細は、こちらの記事で詳しく解説しているので、気になる方はぜひ参考にしてください。
【グランドセイコー SLGC001】見どころ満載!GS初の機械式クロノグラフモデル「テンタグラフ」を紹介
グランドセイコー SBGR307
「SBGR307 Grand Seiko グランドセイコー 9Sメカニカル」は、一切の無駄がない、かなりシンプルな見た目をしたモデルです。グランドセイコー定番のフォルムに、サンレイパターンのシルバーダイヤルが採用されています。無駄を感じさせない洗練された見た目は、ビジネスシーンやフォーマルな場に最適です。
SBGR307は、42mmの比較的大型のケースに覆われていますが、かん先が細く絞り込まれているのでスッキリとした見た目に仕上がっています。シルバーに輝くインデックスは、大型のケースの堂々とした雰囲気とマッチし、力強さを演出しています。
オーソドックスな見た目ながら、高い機能性を有するのがSBGR307の魅力の一つです。ダイバーズウォッチで、防水機能を高めるために採用されているねじ込み式リュウズが搭載されており、日常生活に便利な10気圧防水を備えています。デリケートな手入れを要する手巻きではなく自動巻きなので、シンプルなデザインが好きな方以外にも、腕時計初心者にも広くおすすめできるモデルです。
搭載されているムーブメントは、カレンダー機能も有する自動巻きムーブメントのCaliber 9S68。最大駆動時間は72時間と、金曜日に外しても月曜日の朝まで長持ちする、ロングパワーリザーブタイプです。
グランドセイコー SBGR307のことをより詳しく知りたい方は、以下の記事でも参考にしてください。
【グランドセイコーSBGR307】シルバーのワントーンで使いやすい9Sメカニカルモデル
オメガ スピードマスター ブルー サイド オブ ザ ムーン
オメガは1848年に誕生した、老舗高級腕時計ブランドです。そんなオメガのコレクションの一つであるスピードマスターは、過去6回の月面着陸で携帯されたという、比類なき歴史を持つ希少なモデルです。
ここで紹介する「ブルー サイド オブ ザ ムーン」は、月から見た青い地球を連想させるダークブルー単色の見た目が特徴的です。6時方向にはムーンフェイズが搭載されており、月との関連が見え隠れします。
当モデルはその美しい見た目もさることながら、NASAの正式装備に採用されるほどの高いスペックを誇っている点が魅力です。ムーンフェイズに加え、クロノグラフ(ストップウォッチ)・タキメーター・スモールセコンド・デイト表示と、搭載されている機能は完璧と言えるでしょう。
ケースとムーンフェイズ機能には、オメガの傑出した素材加工技術を垣間見れます。セラミック・リキッド メタル(LIQUIDMETAL)・サファイアクリスタルの3つの素材を組み合わせて作られた当モデルは、細部までのこだわりを感じられます。
ケースサイズは44.25mmと、メンズウォッチとしてもやや大きめの部類ですが、セラミックとレザーストラップが採用されており、107gと比較的軽量でつけ心地の良さが実現されています。
パワーリザーブは約60時間と、十分長持ちします。本家のムーンウォッチは手巻き式ですが、当モデルは自動巻きが採用されているため、普段使いの範囲内ならぜんまいを巻き上げる機会は早々ないでしょう。
また当モデルを語る上で欠かせないのが、スイス連邦計量・認定局(Swiss Federal Institute of Metrology:METAS)の定める基準を満たすほどの高い精度です。日常生活ではまず問題ない高耐磁性を持ち、マスター クロノメーター認定に認定されています。
オメガ スピードマスター ブルー サイド オブ ザ ムーンは以下の記事でも詳しく解説しているので、興味のある方はぜひご覧ください。
【オメガ スピードマスター】月面に思いを馳せるムーンフェイズモデル「ブルー サイド オブ ザ ムーン」
まとめ
パワーリザーブとは、機械式腕時計のぜんまいが完全に巻かれた状態から、どの程度の時間駆動するかを表しています。駆動時間を視認できる機構はパワーリザーブインジケーターと呼ばれ、7大複雑機構のうちの一つに数えられます。
パワーリザーブ搭載のおすすめモデルはいくつかありますが、本記事では「グランドセイコー 9Sメカニカル」「グランドセイコー SBGR307」「オメガ スピードマスター ブルー サイド オブ ザ ムーン」の3つをご紹介しました。いずれのモデルもぜんまいの最大巻き上げから数十時間は動力が供給される、ロングパワーリザーブタイプです。
今回紹介したパワーリザーブ搭載のモデル以外にも、当店では多数の機械式時計を取り扱っております。
パワーリザーブ搭載の時計をご検討の際は、ぜひ創業90周年である腕時計正規販売店であるオンライン腕時計ショップ「HARADA」の利用をご検討ください。豊富な知識を持った熟練スタッフがあなたにぴったりの時計探しをお手伝いいたします。
また、当店では、なかなか購入に踏み切れないお客さまに向けて豊富なお支払方法のご案内や、長く愛用していただけるよう独自の保証プランをご案内しております。お気軽にお問い合わせください。
この記事の監修
- 時計は単なる時間を知るためのツールではなく、個性やスタイルを表現する大切なアイテムであるという信念のもと、ハラダではお客様一人ひとりのライフスタイルに合った時計を提案し、長く愛用できる商品選びをサポートしています。
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