
腕時計との出会いは一期一会です。ふと目にした腕時計に対する、「このデザインが好き」という直感は、何物にも代えがたい大切なきっかけとなるでしょう。その「一目惚れ」した時計と、これから先も長く、心地よい関係を築いていくため、購入前にはデザイン以外の「実用性の視点」も少しだけ確認してみませんか。
当記事では、長年多くのお客様に腕時計をお勧めしてきた正規販売店ハラダのスタッフが、理想のパートナーを見極めるためのポイントを10個、詳しく解説いたします。
- 1 腕時計の購入前にはここをチェック!後悔しないための10のポイント
- 2 1. サイズと装着感:ケース径に加えて「厚さ」と「縦の長さ」も見る
- 3 2. 駆動方式:ライフスタイルに合わせたエンジンの選び方
- 4 3. 精度:許容できる「ズレ」と向き合う
- 5 4. 耐磁性:現代社会に潜む「見えない天敵」への備え
- 6 5. 防水性:日常生活の水との距離感で選ぶ
- 7 6. リュウズ(クラウン):操作性と防水性のカギを握るパーツ
- 8 7. ストラップの種類:季節とTPOによる使い分け
- 9 8. カレンダー等の追加機能:実用性と価格帯のバランス
- 10 9. 外装の素材:傷とエイジングの考え方
- 11 10. メンテナンス:腕時計にも維持費が必要
腕時計の購入前にはここをチェック!後悔しないための10のポイント
アクセサリーの側面もある腕時計において、デザインの好みは購入の決め手になりやすいでしょう。しかし、毎日着用する腕時計に限れば、細部のスペックが購入後の満足度を左右することも珍しくありません。
今回、「正確な時間が分からない」「重すぎて腕が疲れる」「維持費が意外と高い」「水濡れが怖くて使えない」といったお客様と腕時計とのミスマッチを防ぐため、腕時計正規販売店の視点で厳選したチェックリストをご用意しました。
サイズ感などの物理的な相性から、メンテナンスなどの経済的な相性まで。以下の10項目を適宜確認していくことで、あなたにとっての本当の“実用時計”が見えてくるはずです。
1. サイズと装着感:ケース径に加えて「厚さ」と「縦の長さ」も見る
時計のサイズ選びにおいて、カタログ上の「ケース直径(横幅)」だけで判断するのは早計かもしれません。実際に手首に乗せた時の着用感や見た目の印象には、実はケースの「厚さ」や「縦の長さ」も大きく関わってきます。
袖口への収まりを左右する「ケース厚」

スーツスタイルが多い方は、薄型かどうかを重視するのもおすすめです。袖への干渉が少ないため、ストレスフリーな着用感が得られるためです。ジャケットやシャツの袖口にスッと収まるスマートさは、大人の所作を美しく見せてくれるでしょう。

もちろん、厚みのある時計も存在感があって魅力的ですが、袖付きのシャツと合わせる場合や、デスクワークなどのシーンでは、外した方が快適かもしれません。また、冬場のアウターやニットの袖口に引っかかり、時計や衣類が傷つくリスクがあることも考慮すべきでしょう。
【知っておきたいポイント】
私見ではありますが、厚み14mmを下回るモデルであれば、シャツなどの袖付きの服とも相性が良いと感じています。ビジネス用の腕時計を購入する際は、参考にしてみて下さい。
一体感を生む「ラグ・トゥ・ラグ(縦の長さ)」
ケースの直径、厚さに加え、ベルトを繋ぐ足(ラグ)の先端から先端までの長さにも注目してください。手首の幅からはみ出さないサイズ感は、時計と手首のフィット感を高め、長時間着けていても疲れにくいというメリットがあります。

一方、手首の幅よりもラグが長いと、時計が腕から浮いてしまい、重心が安定せず着用中に時計が動いてしまう原因になります。着用感を重視される方は、ラグ・トゥ・ラグと呼ばれるこの長さもぜひ確認してみて下さい。
2. 駆動方式:ライフスタイルに合わせたエンジンの選び方
時計の心臓部であるムーブメントは、いわば時計の性格そのものです。毎日着けるのか、週末だけ楽しむのか。あなたの生活リズムと波長の合う駆動方式を選ぶことで、愛着は何倍にも深まります。
機械式・自動巻き(オートマティック)

腕の振りによってローターが回転し、自動でゼンマイを巻き上げる仕組みの腕時計です。「自分が動くことで時計も動く」という一体感を感じられ、日常的に使い続ければ止まる心配もほとんどありません。現在の機械式時計の主流です。
【知っておきたいポイント】
あくまで、「着けて生活している」うちに腕時計が振られ、ゼンマイが巻き上がる仕組みです。デスクワークで腕の動きが少ない日や、土日に着用せずに置いておくと、月曜日の朝には止まっていることも珍しくありません。その際は、着用前に3、40回リュウズを巻きあげてから、時刻合わせを行う必要があります。
機械式・手巻き(ハンドワインディング)

自分の指でリューズを回してゼンマイを巻き上げる、最もクラシカルなタイプです。ローターがない分、シースルーバックからムーブメントの構造を広々と楽しむことができます。また、ケースを薄くエレガントに作れるため、ドレスウォッチにも多く採用されています。
【知っておきたいポイント】
基本的に数日に一度、ゼンマイを巻き上げるルーティンが必要です。これを「時計との対話」として楽しめるか、単なる「手間」と感じるかが、手巻き式腕時計を持つ分かれ道です。加えて、巻き止まりがあるモデルの場合、無理に巻きすぎるとゼンマイが切れる故障の原因になるため、注意が必要です。
クォーツ(電池式・ソーラー)

水晶振動子を用いた高い精度と、電気で動く手軽さが魅力の腕時計です。ふと手に取った時に、いつでも正確な時を刻んでいる頼もしさがあります。こちらは、電池とソーラーの2タイプが登場しており、前者は定期的な電池交換が必要ですが、後者は光を当て続けられれば、電池交換の必要がありません。

時間表示は、伝統的なアナログ表示と、液晶を用いるデジタル表示の2種類から選ぶことができます。
【知っておきたいポイント】
ソーラー式は光が当たらない場所に長期間保管すると充電切れを起こすため、保管場所には気を使う必要があります。また、電池式の腕時計は、切れた電池を交換せずに放置しておくと、液漏れする危険があります。使わなくなった腕時計は、時計店に頼むなどして、電池を抜いておくのがお勧めです。
スプリングドライブ(第3の駆動機構)

機械式の「ぜんまい」を動力源にしつつ、クォーツの「水晶振動子」で時間を制御する、セイコー独自の革新的なハイブリッド機構です。電池不要でありながらクォーツ並みの精度を誇り、秒針が音もなく流れるように動く「スイープ運針」を特徴としています。
【知っておきたい注意点】
スプリングドライブは、非常に高度な独自技術であるため、内部修理やオーバーホールは基本的にメーカー対応となります。街の時計店では修理できないケースも多く、ランニングコストや納期が通常の機械式よりもかかる可能性があります。
3. 精度:許容できる「ズレ」と向き合う
時計には必ず「誤差」が存在します。1秒の狂いも許されない環境なのか、多少のズレはおおらかに受け入れるのか。精度に対する考え方は、腕時計を扱う上で大きな分かれ道です。
機械式時計の「日差」という味わい

一般的な機械式時計の精度は、1日で数秒〜数十秒ズレるのが当たり前です。「日差(にっさ)」と呼ばれるこのズレは、時計の姿勢やゼンマイの巻き上げ量によっても変化します。
【知っておきたいポイント】
機械式時計を1週間使い続けると、数分単位で時間が進んだり遅れたりすることがあります。週の初めに時刻を合わせ直すという行為を、「時計とのコミュニケーション」として楽しめる余裕が欲しいところです。
精度を突き詰めるならクォーツ時計(電波時計)
クォーツ時計は「月差」数秒〜数十秒という高い精度を誇り、機械式腕時計などに比べ、正確な計時が必要なシーンに適しています。特に、電波・GPSの受信が可能なモデルに関しては、定期的に時刻の自動修正が行われるため、最も正確な腕時計と言えます。

【知っておきたいポイント】
クォーツ式時計は非常に正確な時計ですが、完全にメンテナンスフリーではありません。定期的な電池交換や、電波時計は受信環境の確保が必要です。完璧を求めるあまり、わずかなズレが気になってしまうと、時計を楽しむ心の余裕がなくなってしまうかもしれません。
スプリングドライブはクォーツ並の精度を実現

機械式時計の強力なトルク(力強さ)を持ちながら、平均月差±15秒程度(モデルによる)という、クォーツ時計に匹敵する高精度を実現しています。「機械式のようなゼンマイ駆動のロマンが欲しいけれど、時間のズレは極力抑えたい」という方にとって、理想的な選択肢となります。
【知っておきたいポイント】
精度はクォーツ並みですが、スプリングドライブの構造には多くの機械部品が使われています。油切れや部品の摩耗により不具合が発生する場合もあるため、機械式同様に定期的なオーバーホールが必須となります。
4. 耐磁性:現代社会に潜む「見えない天敵」への備え
時計にとって、水や衝撃と同等に恐ろしい「天敵」が存在します。それが「磁気」です。スマートフォン、PC、タブレット、バッグのマグネット式留め具など、実は現代の私たちの身の回りは、非常に強い磁気であふれています。

時計内部の金属部品がこの磁気の影響を受けると、「磁気帯び」という状態になり、精度が極端に悪化するなど、腕時計のパフォーマンスが大きく低下します。現代生活においては、この影響が少ない、「耐磁性」に優れるモデルを選ぶのが理想でしょう。

【知っておきたいポイント】
一度「磁気帯び」をしてしまうと、自然には直りません。時計店で専用の機械を使って「磁気抜き」をする必要があります。また、クォーツ時計は強い磁気に近づけると一時的に止まることがあります。PCのスピーカーの上や、スマホと重ねて置くことは避けるべきでしょう。
5. 防水性:日常生活の水との距離感で選ぶ
「防水」という言葉に安心しすぎず、自分の使用シーンに合わせた防水性の腕時計を選ぶことで、水濡れによる故障のリスクを大幅に減らすことができます。

日常生活防水(3〜5気圧)と強化防水(10気圧以上)
3〜5気圧防水は、クラシックな時計の基本的な性能で、汗や少しの水滴程度なら問題ありません。一方、10気圧防水もあれば、水仕事や急な雨でも着用することができます。
【知っておきたいポイント】
たとえ「防水」であっても、「お湯」や「蒸気」は苦手です。お風呂やサウナ、シャワーの際は必ず外してください。熱によるパッキンの変形や、蒸気の侵入により、内部が結露・サビてしまう原因の筆頭です。
潜水用防水(ダイバーズウォッチ)
潜水用として、「200m防水」などと表記されている腕時計は、プロダイバーのニーズにも応える、非常に本格的なスペックを備えています。深海でも壊れない腕時計は、日常生活では活かしきれないかもしれませんが、オーバースペックというロマンは大きな魅力となるでしょう。

【知っておきたいポイント】
腕時計を海水に浸けた後は、真水で塩分を洗い流さないと、サビやパッキンに塩分が残り、劣化が進みやすくなります。また、本格的な防水構造を持つ分、ケースが厚く重くなる傾向があるため、タウンユースでの装着感は事前によく確認しましょう。
6. リュウズ(クラウン):操作性と防水性のカギを握るパーツ

リュウズ(3時位置などにある操作つまみ)は、人間と時計をつなぐ重要な操作部です。腕時計のスムーズな調整のため、その構造を必ずチェックしましょう。
「ねじ込み式」かそうでないか
ダイバーズウォッチや防水時計の多くは、リュウズを押し込みながら回してロックする「ねじ込み式」を採用しています。気密性を高めることができ、水やホコリの侵入を強力に防ぎます。 一方、ドレスウォッチなどに多い通常の「引き出し式」は、ロック解除の手間がなく、ゼンマイの巻き上げや時刻合わせをスムーズに行える利点があります。
【知っておきたいポイント】
ねじ込み式の場合、操作後に「ロックを締め忘れる」と防水性はゼロになり、水没事故の最大の原因となります。また、ロックする際に斜めにねじ込んでしまうとネジ山が潰れてしまうこともあるため、慎重な操作が求められます。
なお、ねじ込み式でないからといって、防水性がゼロというわけではないことに気をつけましょう。
7. ストラップの種類:季節とTPOによる使い分け
ストラップは時計の表情を変えるだけでなく、肌に直接触れる部分として快適性を左右します。
メタルブレスレット

汗や水に強く、耐久性が高いため季節を問わず快適に使えます。スーツからカジュアルまで幅広く対応する万能選手です。
【知っておきたいポイント】
金属の塊であるため、時計全体の重量が重くなります。また、長年の使用でコマの間に汚れが溜まると、服の袖口を黒く汚してしまうことがあるため、定期的な洗浄が必要です。
レザーベルト

使い込むほどに腕に馴染み、エイジング(経年変化)を楽しめます。また、レザーであれば、フォーマルな場での品格を一層高めてくれるでしょう。腕時計のひんやりとした金属部分を減らすことができるため、寒い日に着けたい方も多いはず。
【知っておきたいポイント】
水や汗に弱く、特に日本の高温多湿な夏場に使用すると、劣化や匂いの原因になります。夏はメタルやラバーに付け替えるなど、季節に応じた運用をすることで寿命を延ばせます。
ラバーストラップ

スポーティな印象であるだけでなく、肌触りも良く、軽やかに着用できるのがラバーストラップです。腕時計に使用されているラバーは高品質なものが多く、劣化のしにくさや耐久性の高さも魅力となります。手入れも簡単であるため、オールシーズン使える選択肢といえます。
8. カレンダー等の追加機能:実用性と価格帯のバランス
多機能な腕時計はツール的な魅力が増しますが、デザインの印象や値段がものによって変わるため、自らのニーズと予算との兼ね合い、実際の使用シーンを想像して選ぶことが大切です。
選択肢は無限大。どこまでロマン、実用性を追求するか

腕時計には、一般的な時分表示に加え、ビジネスシーンで役立つデイト機能、GMT機能といった多彩な追加機能が用意されています。スポーティさを表現するクロノグラフから、複雑機構であるトゥールビヨンまで、バリエーションは様々であり、ロマンを高める上でも魅力となります。
【知っておきたいポイント】
クロノグラフなどの複雑な機能は、部品点数が多いため、オーバーホール(分解掃除)の費用がシンプルな時計に比べて高額になる傾向があります。また、複雑な機構を持つため、当然ながら購入金額も高くなります。
9. 外装の素材:傷とエイジングの考え方
時計の美観を長く保てるか、あるいは使い込んだ味が出るかは、外装の素材で決まります。ガラスだけでなく、ケース素材の特性もチェックしておきましょう。
ステンレススチール

最も一般的で錆びにくく、丈夫な素材です。浅い傷なら研磨(ポリッシュ)」で新品同様の輝きを取り戻せるのが強みです。
チタン

ステンレスより軽く、金属アレルギーが起きにくい素材です。腕時計に主に使用されるチタン合金は優れた堅牢性をも備えており、腕時計にとって理想的な素材のひとつに数えられます。
各種ゴールド、ブロンズなど

ステンレスなどの素材とは異なる、際立つラグジュアリー感を持つ素材です。貴金属特有の重量感が備わっていますが、素材としては柔らかく、傷がつきやすい点は理解しておくべきでしょう。また、緑青が発生するブロンズは経年変化を楽しめる素材として人気が高いです。
【知っておきたいポイント】
ブラックなどの色がついた「PVD/DLCコーティング」のケースは、擦り傷がつくと地金(銀色)が見えてしまうことがあります。長く綺麗に使うのであれば、慎重な選択と取り扱いが求められます。
10. メンテナンス:腕時計にも維持費が必要
時計は、購入して終わりではありません。車検と同じく、長く性能を維持するためにはコストがかかります。特に、クォーツ式腕時計は電池交換が、機械式腕時計はオーバーホールを定期的に行うことが推奨されています。
定期的なオーバーホール(分解掃除)

機械式時計の場合、3〜5年に一度のオーバーホールが推奨されます。オーバーホールでは、部品を全て分解したのちに、一つ一つ洗浄が行われ、注油や部品交換ののちに腕時計が組み立てられます。これにより、内部の油切れや摩耗の防止に繋がり、長い間腕時計を使い続けることができます。

電池交換
クォーツ式腕時計は、ソーラーモデルでない限りは定期的な電池交換が必要となります。寿命は2、3年が基本で、ブランドによっては約5年動くものもあります。
なお、購入時の腕時計にはモニター電池が入っているため、通常の電池に比べて早期に電池切れが起きる可能性があります。
【知っておきたいポイント】
購入時の予算だけでなく、メンテナンスの周期や料金をあらかた把握しておくことで、腕時計を持つのに必要な経費をある程度予想することができます。ただし、舶来ブランドのモデルや、複雑な機構を持つ機械式腕時計などの場合、メンテナンス費用が高額になったり、修理期間が数ヶ月に及ぶこともあったりするので、注意が必要となります。
まとめ
デザインに惹かれて手にした時計が、スペックや機能においてもあなたのライフスタイルにフィットした時、その時計は単なる「道具」を超え、人生を共にする「最良のパートナー」へと変わります。
メリットだけでなく、デメリットも含めて愛せる一本か。ぜひこの視点を参考に、あなたの腕元で長く輝き続ける運命の時計を見つけてください。
この記事の監修






