高級時計には、多くのモデルに「サファイアガラス」もしくは「サファイアクリスタル」が使われています。この素材は、従来の風防に使われていたプラスチックや、ミネラルガラスの欠点を補った、素材技術の集大成ともいえるガラスです。
本記事では、サファイアガラスの概要や特徴、傷が付いた際の対処法などを解説します。サファイアガラスが採用された具体的なモデルも紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
サファイアガラスとは？
サファイアガラスは、硬くて透明な素材で、主に高級時計の風防や電子機器のスクリーンなどに使用されているものです。主成分は高純度酸化アルミニウムで、天然のサファイアと同じ化学的構成を持っていますが、基本は人工的に製造されます。（画像は天然サファイア）
サファイアガラスは、モース硬度尺度で9と評価され、ダイヤモンド（モース硬度尺度で10）に次ぐ硬さを持ちます。人工的に作られたガラスながら、高い耐久性を持っているのが大きな特徴です。
素材名は「サファイアクリスタル」ですが、時計の風防で使われる際は「サファイアガラス」の名前で呼ばれるのが多い印象です。細かい特徴は、後の項目で詳しく解説します。
時計素材のサファイアガラス
腕時計の風防は、素材技術の進化と共に変化してきました。サファイアガラスが時計素材として広く採用されるようになるまでの経緯を確認していきましょう。
1970年代までの腕時計において、風防はプラスチック素材が一般的でした。プラスチック風防の利点は、軽さとその安価なコスト。しかし大きな欠点として、傷が付きやすく、時間の経過と共に腐食しやすいという問題がありました。
そんなプラスチックの欠点を克服するため、次に開発されたのがミネラルガラスです。ミネラルガラスはプラスチックよりも傷に強く、視認性が高い素材。プラスチックの欠点を補うだけでなく、安価であるため、現在でも低価格帯の腕時計に多く使用されるガラスです。
しかしミネラルガラスは衝撃に弱いため、強い打撃によって割れるという難点もありました。
そして、プラスチックとミネラルガラスの両方の欠点を解消する素材として開発されたのが、サファイアガラスです。当初は高級時計にのみ採用される素材でしたが、最近では中価格帯の時計にも使われるようになっています。
サファイアガラスの特徴
サファイアガラスは、これまでの風防の欠点を補うものであり、高級時計の定番素材として定着しています。サファイアガラスの特徴は、以下の3点です。
・ダイヤモンドに近い硬度を持つ
・約2,000度まで耐える耐熱性
・非常に高い透過率
それぞれの特徴を詳しく解説します。
ダイヤモンドに近い硬度を持つ
サファイアガラスの特徴は、高い硬度です。前述のとおり、サファイアガラスはモース硬度尺度で9と評価されます。
なおモース硬度とは、10段階で鉱物の硬さを定めたものです。タルクが1で最も柔らかく、ダイヤモンドが10で最も硬いとされています。
| モース硬度 | 標準鉱石 |
| 10 | ダイヤモンド（金剛石） |
| 9 | コランダム（鋼玉） |
| 8 | トパーズ（黄玉） |
| 7 | クオーツ（石英） |
| 6 | オーソクレース（正長石） |
| 5 | アパタイト（燐灰石） |
| 4 | フローライト（蛍石） |
| 3 | カルサイト（方解石） |
| 2 | ジプサム（石膏） |
| 1 | タルク（滑石） |
サファイアガラスはダイヤモンドに近い硬度を持っており、ぶつけたりこすったりするだけでは割れません。日常的に使用する時計の風防素材としては申し分ない特性です。
約2,000度まで耐える耐熱性
高い耐熱性も、サファイアガラスの特徴です。約2,000度までの高温に耐えられる素材であり、高品質の時計製造だけでなく、航空宇宙や電子機器、科学研究などさまざまな分野で重宝されています。
サファイアガラスの耐熱性が高い理由は、主成分である酸化アルミニウムが高い融点を持っているからです。具体的な数値で表すと、酸化アルミニウムの融点は2,072度（沸点は2,977度）です。高温でこの酸化アルミニウムを溶融し、冷却して結晶化させることでサファイアガラスが製造されます。
熱衝撃に対してはそれほど強くないため、急激な温度変化には注意が必要ですが、日常的な使用であれば全く問題ないでしょう。
非常に高い透過率
サファイアガラスは、高い透過率を誇る素材でもあります。
透過率とは、ある物質が光をどの程度通過させるかを示す指標です。「通過する光の量」を「入射する光の量」で割ったもので、透過率が高いほどより多くの光を通過させ、物質の向こう側がクリアに見えます。
サファイアガラスは人工的に作られたサファイアであり、製造過程で不純物を取り除いているため、高い透過率となっています。そのため、時計の文字盤や他のディスプレイがクリアに見えるのが大きな利点です。
また、無反射コーティングを施されていることが多く、出先などの強い光が当たる場面においても時間をしっかりと確認することができます。
サファイアガラスの透過率の高さは、時計の内部機構や細かいデザインを際立たせるなど、時計の全体的な美しさを強調する効果も備えています。機能性以外の部分も重視される高級時計とは、まさに相性ぴったりの素材と言えるでしょう。
サファイアガラスのデメリット
サファイアガラスには多くのメリットがある一方で、無視できないデメリットも存在します。それは、「一点集中の圧力に弱いこと」「硬度が高いため派手に割れてしまう可能性があること」です。
サファイアガラスは硬く、日常的な摩耗や傷には強い素材ですが、一点集中の衝撃には脆いといった特徴があります。例えば固いアスファルトの上に落としたり、デスクの角などにぶつけたりすると、ガラスが割れる可能性があります。
サファイアガラスが割れるとき、割れ方が通常のガラスとは異なるのも知っておきたいデメリットです。部分的に小さく割れるのではなく、派手に割れる場合が多いため、時計やデバイスにとって大きな損傷となり得ます。
サファイアガラスの種類・形状
サファイアガラスの種類・形状は、「ドーム型」と「カーブ型」の2つです。同じサファイアガラスですが、それぞれ形状が全く異なるため、全体的なデザインにも大きな違いが現れます。
以下、「ドーム型サファイアガラス」「カーブ型サファイアガラス」の特徴と、それぞれの形状に当てはまる具体的なモデル（グランドセイコー SBGJ273、フランクミュラー グランドカーベックス）を紹介します。
ドーム型サファイアガラス
ドーム型サファイアガラスは、「ボックスサファイア」とも呼ばれており、丸みを帯びた形状をしているのが特徴です。ヴィンテージスタイルの高級時計で人気があり、20世紀中頃の時計によく見られたプラスチック風防のスタイルを模倣しています。
ドーム型サファイアガラスは、プラスチック風防の雰囲気を保ちつつ、サファイアガラスの高い硬度と耐久性を備えています。プラスチック風防のクラシックな外観を好むものの、その傷つきやすさに不満を感じているユーザーにおすすめです。
さらにドーム型サファイアガラスの高級時計としておすすめなのが、「グランドセイコー 9Sメカニカル SBGJ273」です。2023年9月に発表された新作で、日本の秋を象徴する「床もみじ」をテーマにしたモデルとなっています。床もみじとは、漆塗りの床に映り込む紅葉であり、情緒あふれる景観として古くから親しまれているものです。
クラシックな見た目と現代的な要素が融合したデザインで、床もみじのテーマに沿うように、グランドセイコーでは珍しい赤文字盤を採用しているのが特徴です。風防はドーム型サファイアガラスで、伝統的な高級時計らしい雰囲気が漂っています。
ケースサイズは39.5mmで、厚みは14.1mmと、フォーマルなシーンでも比較的合わせやすいサイズ感です。ダイバーズウォッチのようなねじ込み式リューズではないため、基本的に水ぬれは避けるのが無難でしょう。価格は913,000円（税込）※です。
【グランドセイコー SBGJ273】「床もみじ」を表現したクラシカルなハイビートGMTモデルをレビュー
※2023年12月時点。
カーブ型サファイアガラス
カーブ型サファイアガラスは、その名のとおり、ケースが湾曲しているタイプです。サファイアガラスの主な特徴である高い耐傷性はカーブ型でも同様で、日常的な使用でも傷が付きにくく、長期間にわたってその美しさを保持できます。
高級時計の世界では、レクタンギュラー（長方形）型やトノー（樽）型のモデルが注目されています。これらのモデルの特徴は、単にケースの形状だけでなく、ガラス自体もカーブを描いている点です。
ケースを上記のような形状にすること自体は、技術的に特に難しいわけではありません。ただし全体のデザインとの調和を考えると、細部にわたる精密な設計が求められます。サファイアガラスに関しては、硬度が高いため、カーブさせるには優れた技術力が必要です。
カーブ型サファイアガラスの高級時計でおすすめなのは、「フランクミュラー グランド カーベックス（CX36SCATSTGJ ACAC BLUE）」になります。30年以上の歴史を持つフランクミュラーのコレクションで、独特の湾曲したデザインが特徴です。手首に沿うように設計されており、快適な着用感となっています。
上記モデルは、内部のカーブ（INNER CURVEX）に注目してください。サファイアクリスタルの風防が手首いっぱいに拡張されており、時計の視認性を高めつつ、独特の外観を作り出しています。
文字盤には「Clou de Paris」のパターンが施されており、一般的な時計には見られない躍動感のあるデザインとなっています。価格は2,035,000円（税込）※です。
フランクミュラー CX36SCATSTGJ ACAC BLUE【青文字盤 グランドカーベックス】
番外編「サファイアクリスタルケース」
ここまでご紹介してきたサファイアクリスタルですが、中にはこれをケース全体に使用したモデルも登場しています。
今回ピックアップしたのは、ラグジュアリースポーツウォッチブランド「クストス」の一本、「メトロポリタン スケルトン」です。
スケルトン仕様に設計された構造を、サファイアクリスタルケースで包んだ、360°どこから見ても内部構造が透けて見える一本です。そのあまりに大胆かつユニークなビジュアルは、オトナの遊び時計として最高峰のポテンシャルを秘めています。
腕時計の個性のみを追求する男性にぜひお試しいただきたい一本です。
サファイアガラスは修理できる？
サファイアガラスは比較的傷が付きにくい素材ですが、傷を完全に防げるわけではありません。損傷の度合いにかかわらず、自力での修理は不可能で、メーカーや民間の修理業者に依頼する必要があります。
ただし傷のように見えて、無反射コーティングが剥がれただけの場合もあるため、まずは時計の状態をよく確認するのが重要です。ここからは、サファイアガラスに傷が付いた際の対処法を詳しく解説します。
自力での修理は不可能
結論からいえば、サファイアガラスが破損した場合、自力での修理は不可能です。サファイアガラスは、高い硬度と耐久性により、通常使用では傷が付いたり割れたりするケースは多くありません。しかし、不慮の事故によって破損する可能性は十分にあります。
サファイアガラスに付いた傷は、通常の研磨剤では修復できません。傷が気になり自力で手入れを試みる方もいますが、ガラスにさらなる傷をつけ、高級時計の美しさを損なってしまう場合がほとんどです。
かといってサファイアガラスに付いた傷や割れ目を放置してしまうと、時計の文字盤や針、さらには機械内部にまで損傷が及ぶ可能性があります。メーカーや専門の修理店に依頼し、早急に対処するのが安全です。
メーカーや民間の修理業者に依頼
メーカーによる修理であれば、店舗やサービスセンターで受付を行っている場合がほとんどです。サファイアガラスの修理費用は、時計によって異なりますが、一般的には2万円程度が最低金額となっています。風防の交換に使われるのは、メーカー純正のパーツです。
メーカー以外にも、民間の修理業者がサファイアガラスの修理を行っています。メーカーによる修理と同等のクオリティを、よりリーズナブルな価格で受けられるのが特徴です。具体的には、正規修理の50〜70％程度が多いとされています。有名ブランドの時計であれば、純正パーツを持っている修理会社も多く、お得に交換しやすくなっています。
ただし修理のクオリティにはばらつきがあるため、信頼できる業者を選定することが重要です。
無反射コーティングが剥がれただけの場合もある
時計のサファイアガラスに傷が付いたように見える場合、実際にはサファイアガラス自体が傷ついているのではなく、その表面に施された無反射コーティングが剥がれているだけの可能性もあります。
無反射コーティングは、光の反射を減らし、時計の文字盤がよりはっきりと見えるようにするためのものです。薄い膜がサファイアガラスの表面に施され、特定の波長の光の反射を減少させます。
無反射コーティングはサファイアガラス自体よりも脆く、傷が付きやすい性質があります。自力で直そうとするとさらにコーティングを剥離させてしまうリスクもあるため、ガラスの交換を検討しましょう。
ハイスペックなサファイアガラス
サファイアガラスは、ダイヤモンドに近い硬度や優れた耐熱性、高い透過率が特徴の材質です。高級時計では主に風防に使われており、ドーム型やカーブ型などさまざまな種類があります。純正パーツの交換では最低2万円程度がかかるなど、いかにハイスペックかつ高級な素材であるかが分かります。
サファイアガラスが破損してしまった場合は、自分で直そうとするのではなく、メーカーや専門業者に修理を依頼しましょう。
高級腕時計の正規販売店であるハラダでは、腕時計をご購入のお客様を対象に、3年間の腕時計専用保険を付帯しています。腕時計保険は「GMC（Gressive Menbers Card）」と「ホディンキーウォッチケア」の2種類です。
GMCは、時計のメンテナンスと修理に関する特典を提供する会員制のサービスで、修理やメンテナンスにおける割引や特典を提供しています。もう一方のホディンキーウォッチケアは、時計のメンテナンスと修理に特化したサービスです。メーカー保証外の事故・請求があった場合でも、免責1,000円でサポートを受けられます。サファイアガラスの弱点とされている、落下や衝突での破損にも対応しておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修
- 時計は単なる時間を知るためのツールではなく、個性やスタイルを表現する大切なアイテムであるという信念のもと、ハラダではお客様一人ひとりのライフスタイルに合った時計を提案し、長く愛用できる商品選びをサポートしています。
当ブログでは、最新の製品レビュー、メンテナンスのコツ、時計に関するトリビアなど、腕時計に関する多岐にわたる情報を提供しています。
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