
数ある高級腕時計ブランドの中でも、グランドセイコーは卓越した時計製造精度と、日本の美意識を宿した美しいデザインで知られています。その中でも、象徴的なデザインのひとつが、機械式モデルにのみ採用される「岩手山パターン」と呼ばれるダイアルデザインです。
これは、ブランドの機械式時計の聖地「グランドセイコースタジオ 雫石」から望む、雄大な岩手山の情景を文字盤に映し出したものです。当記事では、グランドセイコーを象徴するこのパターンについて、その背景にある物語や、デザインの秘密、この特別なダイアルを持つ主要モデルを詳しくご紹介します。
岩手山とグランドセイコー

グランドセイコーの機械式時計「9Sメカニカル」は、岩手県に位置する「グランドセイコースタジオ 雫石」で、熟練の匠たちの手によって生み出されています。そして、スタジオの窓からは、四季折々の姿を見せる雄大な岩手山の姿を目にすることができます。作り手たちは、この泰然自若とした山の姿にインスピレーションを受けながら、時計作りの本質と向き合っているのです。

このグランドセイコーと岩手山の深い関わりは、グランドセイコーのブランドフィロソフィー「THE NATURE OF TIME」にも共通しています。これは、自然の移ろいを感じ取る日本人らしい感性と、時の本質を追求する匠の技を兼ねるというもの。岩手山パターンは、まさにこの哲学を体現しており、グランドセイコーを象徴するディテールのひとつと言えるでしょう。
岩手山パターンの特徴と美学 ― 光と影が織りなす多様な表情

「岩手山パターン」では、工房から望む岩手山の険しい山肌が、ブランドが得意とする繊細な型打ち模様で再現されています。その表面に放射状に広がるパターンを持ち、光を複雑に反射することで、豊かな表情の変化を演出します。

また、岩手山パターンを持つモデルは、共通してデザイン理念「グランドセイコースタイル」を打ち出した「44GS」の思想を受け継いでいます。歪みのない平滑な鏡面仕上げのケースと、光を複雑に反射する岩手山パターンが組み合わさることで、腕時計全体に光と影の無数のグラデーションを生み出しているのです。
多様な自然の情景を映し出す表現力

岩手山パターンは単一のデザインではなく、モデルごとに異なる季節や情景を表現しています。あるモデルでは、冬の岩手山を覆う荘厳な雪景色を、静謐な白やスノーブルーのカラーリングで表現。また、岩手県の県花である「桐」から着想を得て、柔らかな紫色と融合させた「南部の紫桐」と呼ばれる優美なモデルも存在します。

ラインナップは王道的なヘリテージコレクションが基本となりますが、次世代コレクションである「エボリューション9コレクション」にも、徐々に岩手山パターンモデルが増えつつあります。限定モデルには岩手山パターンのルーツを感じさせる特別デザインも見られ、今後もさらなるデザインの多様化が期待できます。
岩手山パターンを採用したグランドセイコーを一挙紹介
以下に、岩手山パターンのダイアルを持つグランドセイコーの機械式モデルを「ヘリテージコレクション」と「エボリューション9コレクション」の現行モデルからピックアップしてご紹介いたします。グランドセイコーの卓越した文字盤製造技術を体感できるだけでなく、実用性を重視した設計も魅力的ですので、ぜひモデル選びの参考としてみて下さい。
ヘリテージコレクション
ヘリテージコレクションの岩手山パターンモデルは、いずれも44GSのデザインを現代的に解釈した「44GS現代デザイン」を採用しています。ザラツ研磨によって生み出される歪みのない鏡面と、シャープな稜線が織りなす外観は、まさにブランドのお手本とも言える造形美を誇ります。
SBGJ263 / SBGJ265:新素材で品格を上げるハイビートGMT
ヘリテージコレクションに属するSBGJ263とSBGJ265は、岩手山パターンの魅力を異なる表情で描き出すハイビートGMTウォッチです。SBGJ265は、岩手山の力強い山肌を漆黒のダイアルで表現しており、その深い黒と輝きのコントラストが際立ちます。一方、SBGJ263は、荘厳な冬の情景を思わせるシルバーダイアルを採用し、光を受けて繊細な陰影を生み出します。

磨き上げられたケースとブレスレットには、世界最高レベルの耐食性を備えた新素材「エバーブリリアントスチール」が採用されています。一般的な高級時計に使われるステンレススチールに比べ、高い耐食性と輝きを誇り、「44GS」が目指した「燦然と輝く腕時計」というコンセプトを現代において完璧に体現しています。

ダイアルに刻まれた繊細な岩手山パターンは、磨き上げられた多面カットの針やインデックスと響きあい、夜光塗料がなくても高い視認性を確保します。また、ダイアルにアクセントを加えるGMT針は、モデルごとに最適なカラーが選択されており、機能性だけでなくデザイン上の個性を際立たせています。

心臓部には「キャリバー9S86」を搭載。毎秒10振動(36,000振動/時)するハイビート仕様のため、外部からの衝撃に強く、安定した高精度を実現します。また、パワーリザーブは約55時間を確保し、実用性も十分です。ケースサイズは直径40mm、厚さ14mmと、現代の腕時計として標準的なサイズ感で、防水性、耐磁性なども日常使いに適したレベルで備えています。
SBGH299 / SBGH301:ワンランク上の3針ハイビート
先述のGMTモデルと同様に、白く美しい輝きを放つ「エバーブリリアントスチール」をケース、ブレスレットに採用したモデルです。こちらは純粋な3針モデルであり、ラインナップは、岩手山の雪景色を思わせるSBGH299(ホワイトダイアル)と、精悍なSBGH301(ブラックダイアル)の2種類で展開されます。

本作では、シンプルさの中に宿る洗練された表情を魅力としています。SBGH299では、清冽なホワイトの岩手山パターンダイアルの上を、秒針の鮮やかな「青焼き」が滑るように進みます。対するSBGH301は、漆黒のダイアルにシルバーの針が映え、よりストイックで力強い印象を与えます。

搭載されるムーブメントは、3針専用のハイビート「キャリバー9S85」。シンプルな機能性ではありますが、毎秒10振動がもたらす高精度と約55時間のパワーリザーブという基本性能はGMTモデルと遜色ありません。
ケースの厚みは13.3mmとGMTモデルに比べてわずかに薄く設計されています。岩手山パターンによってシンプル過ぎない表情を持ち、優れた汎用性も魅力となるでしょう。まさに、ワンランク上のスタンダードモデルです。
SBGW323:手巻きモデル“南部の紫桐”

これまでに紹介した自動巻きモデルとは一線を画す、クラシカルな魅力を漂わせるのが、手巻きメカニカルモデルの「SBGW323」です。このモデルは、岩手山パターンのダイアルに、岩手県の県花であり「南部の紫桐」として古くから愛される「桐」から着想を得た、淡く美しい紫色を融合させています。グランドセイコーのレギュラーモデルとしては珍しいこの色彩は、手元に上品かつ知的な個性を与えます。

デザインは「44GS」現代デザインを継承しつつも、ケース径はシリーズ最小クラスの36.5mmを採用。これは、自動巻き機構のローターを持たない手巻きムーブメントを搭載することで実現したスリムなサイズ感で、性別を問わず多くの人の腕に心地よくフィットします。ダイアルはデイト表示を排したシンプルな3針構成となっており、繊細な岩手山パターンと、「紫桐」が織りなす優美な調和を心ゆくまで楽しむことができます。

搭載するムーブメントは、手巻きの「キャリバー9S64」。ぜんまいを最大まで巻き上げると約72時間(約3日間)という長いパワーリザーブを誇ります。また、毎日リュウズを巻くという行為は、時計に命を吹き込む儀式であり、デジタル機器にはない温もりと愛着を感じさせてくれるでしょう。ケース厚も11.6mmと薄く、スーツの袖口にすっきりと収まります。
SBGW306:18Kピンクゴールド無垢の手巻きモデル
「SBGW306」は、先に紹介したSBGW323と同じく、36.5mm径のコンパクトな「44GS」現代デザインをベースとした1本です。本作では、ケース素材に18Kピンクゴールドを採用することで、至高のエレガンスが追求されています。

ダイアルでは、荘厳な冬の岩手山を彷彿とさせるシルバーカラーの岩手山パターンがが目を引きます。また、ピンクゴールド製の針やインデックスがシルバーダイアルの上で際立ち、卓越した視認性とラグジュアリーな雰囲気を両立。ストラップには気品のあるブラウンのクロコダイルレザーが採用され、時計全体がドレッシーで優雅な印象にまとめられています。

搭載ムーブメントは、SBGW323と共通の手巻きメカニカル「キャリバー9S64」。約3日間のロングパワーリザーブを誇り、シースルー仕様のケースバックからは、ローターを持たない手巻き式ならではのムーブメントの隅々までを鑑賞することができます。
金無垢ならではの重厚感と、肌なじみの良いピンクゴールドの温かみのある輝きが、特別な存在感を放つ1本です。
エボリューション9 コレクション
「グランドセイコースタイル」を発展した新デザインコード「エボリューション9スタイル」を採用する本コレクション。そのフラグシップにあたるクロノグラフウォッチ「テンタグラフ」にも、岩手山パターンが採用されています。
SLGC001 / SLGC007 “TENTAGRAPH”:ブランド初の機械式クロノグラフ
グランドセイコーの歴史における新たなマイルストーンとして、2023年に登場したブランド史上初の機械式クロノグラフウォッチが「TENTAGRAPH(テンタグラフ)」です。これに属するSLGC001とSLGC007は、岩手山パターンのダイアルを有しています。

SLGC001は、ブランドカラーを彷彿とさせる落ち着いたブルーのダイアルに岩手山パターンが刻まれています。一方、SLGC007は、厳冬期の岩手山を覆う、青みがかった新雪を表現したスノーブルーのダイアルが採用されており、よりクールでモダンな印象です。
また、どちらのモデルも、サブダイアルを一段下げる二層構造とすることで、情報量が多いクロノグラフながらも瞬時に時刻を読み取れる高い視認性を確保しています。

ケースとブレスレットには、軽量で耐傷性・耐アレルギー性に優れたブライトチタンを採用。ベゼルには傷に強いセラミックスが用いられ、アクティブなシーンでの使用にも耐えるタフネスを備えています。ケース径は43.2mmと存在感がありますが、重心を低く設計することで、腕に吸い付くような優れた装着感を実現しています。

心臓部には、次世代のハイビートムーブメント「キャリバー9SA5」をベースに新開発された「キャリバー9SC5」を搭載。10振動のメカニカルクロノグラフとしては世界最長となる約72時間のパワーリザーブを誇り、針飛びを抑える「垂直クラッチ」や確実な操作感を実現する「ピラーホイール」など、セイコーが長年培ってきたクロノグラフ技術の粋が結集されています。
まとめ:日本の自然美を宿す岩手山パターン
グランドセイコーの「岩手山パターン」ダイアルは、機械式腕時計に対するブランドの誇りと、 日本人らしい美意識の表現、優れた文字盤製造の技術が反映された、なんとも魅力的なディテールです。
文字盤に広がる雄大な岩手山の姿は、私たちに時間の本質や自然の移ろいを感じさせ、日々の生活に深い充足感を与えてくれます。ぜひ一度、実物を手に取り、その圧倒的な美しさと時計に込められた物語を体感してみてはいかがでしょうか。
この記事の監修

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資格:日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
担当ブランド:Grand Seiko、NORQAIN
腕時計販売店ハラダのオンライン担当。
腕時計の撮影、オンライン上でのマーケティング全般を担当。
最新のトレンドからクラシックなモデルまで、幅広い腕時計の情報を提供し、特に日本の腕時計ブランドであるグランドセイコーの魅力を発信することに注力。グランドセイコーの精密な技術と美しいデザインについて詳しく紹介し、時計の選び方や魅力を伝える事に生きがいを感じている。



