自動巻き時計は、腕に着けているだけで自然にぜんまいが巻かれるしくみを備えた機械式時計です。ぜんまいを巻き上げる必要がある機械式時計にとって、極めて実用的な機能であり、多くのブランドの腕時計に採用されています。
本記事では一生使えるような時計を探している方に向けて、自動巻き時計の仕組みや歴史を分かりやすく解説します。自動巻き時計についての知識を深め、腕時計のある生活を楽しみましょう。
自動巻き時計とは
自動巻き時計は機械式時計の一種で、オートマチック時計とも呼ばれています。
機械式時計は電池を使用せず、ぜんまいが巻き戻る力のみで時計を動かします。もちろんゼンマイが解けると時計は止まってしまいますが、この弱点をカバーしたのが自動巻き時計。腕の動作と、ぜんまいが巻き上がる仕組みが連動しており、腕時計を身に着けている限りは時計が止まらないのが特徴です。
なお、時計を動かしているこの機構を、ムーブメントといいます。ムーブメントは車のエンジンに例えられることもあり、時計の心臓部でもある重要な機構です。
自動巻き以外にも、ムーブメントにはいくつかの種類があります。種類によって機能も異なるので、それぞれの特徴を知っておきましょう。
ムーブメントは4種類
時計の心臓部といわれるムーブメントは、動力の違いにより4つの種類に分けられます。それぞれの特徴を簡単に紹介します。
1.機械式・自動巻き
自動巻きはローターという部品が搭載されており、腕の動きを利用して自動でぜんまいを巻き上げます。
2.機械式・手巻き
機械式の手巻きは、ケースの側面にあるリューズを手で回してぜんまいを巻き上げます。ぜんまいがゆるむと時計が止まるため、定期的な巻き直しが必要です。
3.クオーツ式
水晶のパーツに電圧をかけて振動させ、電子回路で振動をコントロールする時計です。電池切れになるまで動き続けるようになっており、正確な時刻を刻みます。
4.スプリングドライブ
セイコー独自のムーブメントです。機械式のパワーとクオーツの精度の高さを併せ持ちますが、その機構ゆえに量産が難しく、他ムーブメントに比べ高価な多い傾向にあります。
腕時計は搭載するムーブメントの違いによってデザインが変わることもあります。実用性や性能にも影響するので、種類を知っておくと時計が選びやすくなるでしょう。
自動巻き時計の仕組み
先述の通り、自動巻き時計は機械式のムーブメントです。一般的に自動巻き時計は、ムーブメントの裏側に半月形のローター(回転錘)という部品を搭載しているのが大きな特徴です。
時計を身に着けている間は、腕の動きでこのローターが回転し、脱進機と調速機で動きをコントロールしてぜんまいを巻き上げます。
機械式の腕時計は巻き上がったぜんまいがほどける力を動力として、針を動かしているので、電池は必要ありません。そして自動巻時計であれば、日常的に腕時計を着することで、止まることなく動き続けてくれるでしょう。
自動巻き時計の歴史
時計が小型化して携帯できるようになったのは、16世紀頃といわれています。
自動巻きという機構自体は、18世紀には、アブラアン=ルイ・ブレゲによって実用化されていたとされています。当時の主流は懐中時計であり、ポケットに入れて身に着けることが多く、上下に揺れる振動を利用してぜんまいを巻き上げていました。
しかし、上下運動ではぜんまいを巻き上げるだけの安定したエネルギーが供給されなかっため、普及までには至りませんでした。
その後20世紀になると腕時計が普及し、自動巻きの利便性が評価されるようになったことから、自動巻きムーブメントの開発が加速。1926年には一般向けモデルにも搭載されるようになり、最終的に左右どちらにも回転するムーブメントが発明されたことで、その実用性が大幅に向上しました。
自動巻き時計の話題作3選
機械式時計において自動巻機構はもはや一般的となっており、ハイエンドからリーズナブルなモデルにまで幅広く採用されています。
ここでは、これまで販売された機械式自動巻きの時計で、話題を呼んだ3つの時計についてご紹介します。
オメガ シーマスター アクアテラ 150M 15,000ガウス
シーマスター アクアテラ 15,000ガウスは、オメガ独自のムーブメントであるコーアクシャル キャリバー8508を初めて搭載し、話題になった時計です。
機械式時計は磁気を帯びるとムーブメントに影響が発生し、精度に影響が出ることが問題でした。そこでオメガは、従来はケースを非磁気の軟鉄で覆うことが主流だったところを、ムーブメント本体に磁気に強い素材を使用し、15,000ガウス以上の磁場に耐えられる時計を生み出したのです。
現在ではコーアクシャルムーブメントは更なる進化を遂げており、精度と耐磁性の両方で優れていることが証明されている「マスタークロノメーター」認定モデルが多く登場しています。
グランドセイコー SLGH005 キャリバー9SA5
グランドセイコーのスタジオがある岩手県雫石町の白樺をイメージして作られたSLGH005は、通称「白樺」と呼ばれ、グランドセイコーが2020年に発表した新ムーブメントの9SA5が搭載されたことで話題になったモデルです。
時計は、振り子のように往復運動するてんぷの振動数が高いほど精度の安定性が高くなります。一般的に毎秒8振動以上がハイビートとされていますが、キャリバー9SA5は、毎秒10振動を実装。安定した精度を供給できるようになっています。
さらに注目すべきは、脱進機の効率化とツインバレルの搭載でしょう。これにより80時間の連続駆動が可能となっており、極めて高い精度を備えるようになりました。
その他、部品の配列などの構造に工夫をこらしており、高機能でありながら薄型化を実現したことで、着け心地の良さも追及されています。
【グランドセイコー メカニカル SLGH005 白樺】 世界が認めたグランドセイコーの傑作モデルをご紹介
ザ・シチズン メカニカルモデル Caliber 0200
シチズン独自のムーブメント、キャリバー0200を搭載したメカニカルモデルは、ハイエンドラインであるザ・シチズン初の機械式モデルとして登場しました。
新開発の機械式時計に対する10年余りのブランクがあったシチズンですが、本作の完成度の高さには目を見張るものがあります。
それを叶えたのが、「ラ・ジュー・ペレ」との共同開発です。スイスの名門とともに作り上げられたキャリバー0200は、高精度を誇るフリースプラングテンプをはじめ、最先端の機械式時計の技術を採用。一日にわずか-3秒~+5秒という非常に高い精度を実現しています。
また、そのデザイン性にも注目すべきでしょう。ソリッドな質感が魅力の本作は、ブレスレットとつながるラグという部品をオミットしており、スポーティテイストさえ感じさせる、流れるようなフォルムを備えています。
なお、現在では後継機であるCal.0210を搭載したメカニカルモデルがリリースされています。機能面でブラッシュアップが施されているため、ぜひこちらもご確認ください。
【機械式 Cal.0200搭載 特定店限定モデル】 メカニカルというザ・シチズンの新たな可能性
自動巻き時計の魅力と注意点
自動巻き時計は一生愛用できる時計です。時計選びでは、自動巻き時計の魅力的な部分に注目してしまいますが、注意点も知っておくと購入後に困ることがなく、長く使い続けられるでしょう。
ここからは、機械式自動巻き時計の魅力と注意点を、それぞれ紹介します。
魅力1:たくさんの種類から選べる
自動巻き時計の魅力は種類の多さです。近年、自動巻きは機械式時計の主流で、多くのメーカーやブランドで採用されています。
クオーツ時計に比べて機械式時計はパワーが強く、大きい針も装着可能です。一度に複数のパーツを動かせるので、日付表示やパワーリザーブインジケーターなど、さまざまな機能を持つ時計が多くなる傾向があります。
機能やデザインだけでなく、幅広い価格帯から選べるので、好みの時計を見つけやすいでしょう。
魅力2:装着するだけでぜんまいが巻き上がる
自動巻き時計は、腕に装着しているだけでぜんまいが巻き上がるという、その使いやすさも魅力です。
手でリューズを巻き上げる必要もなく、腕が動くたびに常時ぜんまいを巻き上げられるので、時間が狂うことも少なく高精度を維持できます。
ほぼ毎日時計を身に着けている方や、リューズを巻き上げるのは手間だと感じる方にはおすすめの時計です。
精度も安定する
ぜんまいの巻き上げが自動で行われると、精度を維持しやすくなります。
時計は、巻き上げられたぜんまいが徐々にほどけると、歯車を回す力が落ちて精度を失いますが、自動巻き時計は常に巻き足されるため、パワーが低下しにくい仕組みになっています。速度を調整する部品の動きにも影響することが少ないため、精度が安定しているのが特徴です。
なお、精度が高い自動巻き時計には、ストップウォッチ機能がついたクロノグラフモデルも多くラインナップされています。
注意点1:重たいモデルもある
自動巻き時計の中には重量が重たいモデルもあるので、選ぶ際は重量も確認しましょう。
自動巻き時計は、ローターという半円形の部品でぜんまいを動かします。このぜんまいを自動で巻き上げる仕組みは複雑で、ローターを動かすためには複数の部品が追加で必要となります。そのため自動巻き時計は、重量と厚みのあるモデルが多い傾向にあります。
近年ではローターを小型化したマイクロローターが登場し、他の部品と同じ階層に並べられるようになりました。薄型の時計が欲しい場合は、マイクロローターを採用したモデルもおすすめです。
注意点2:使わないと止まる
自動巻きは使わなくなると止まるため、管理に注意が必要です。
自動巻き時計は毎日8~10時間ほど身に着けていれば、動きを維持できるといわれています。しかし、着用していない場合は、ぜんまいがほどけきるまでの間である、2~3日ほど経つと止まってしまいます。
もし長く使わないままで時計が止まってしまったときは、リューズをある程度回し、ぜんまいを巻き上げてから着用してください。自動巻きだけではすぐにぜんまいは巻き上がりません。もちろん、時計を強く振って動かすなどの行為は、内部機構に強い衝撃を与えるので避けましょう。
なお、しばらく身に着ける予定がない場合は、時計に動きを与えられるワインディングマシーンに入れて保管するのも良いでしょう。
注意点3:メンテナンス費用が高くなる
自動巻き時計の購入を考えている場合には、メンテナンス費用が高くなることも知っておきましょう。
手巻き・自動巻きどちらの場合も、長く使い続けるためには定期的なメンテナンスが必要です。自動巻きの時計は、ローターをはじめとする部品が手巻き式よりも多くなるので、摩耗や故障などの可能性も高くなります。
そのため、購入後にかかるメンテナンス費用も考慮して選びましょう。
自動巻き時計を長く使うためにできること
職人の技術が詰まった自動巻き時計は、一生ものとして長く愛用できる時計です。しかし、時計の精度や機能を維持するためには、定期的なメンテナンスが必要になり、保管する環境を整えることも大切となります。
ここからは、自動巻き時計を長く快適に使うために、どのようなことができるのかを紹介していきます。
定期的にメンテナンスを行う
時計の内部には複数の細かい部品が使われています。使い続けているうちに油が固まったり汚れがたまったりして、故障につながる可能性もあります。
そのため自動巻時計に関わらず、機械式時計は3~5年ごとにオーバーホールが必要です。しっかりとメンテナンスを行えば何十年も、それこそ子に受け継いでいけるほど長持ちするので、定期的なメンテナンスを心がけるようにしましょう。
高温多湿・ほこりっぽい・磁気があるところに保管しない
機械式時計は精密機器のため、保管する環境が悪いと寿命が短くなる可能性があります。内部に細かいほこりが入らないよう、ケースに入れて保管するのがおすすめです。
またムーブメントに使われている部品は金属製のものが多く、高温多湿の場所を避けての保管が推奨されています。さらに金属部品は磁気を帯びると正常に動作しなくなることもあるため、近くに磁力を持つものがないか確認しましょう。
しばらく使わないときの保管方法
自動巻き時計を1年以上使わない場合は、保管前の準備が大切です。まず時計の周りに付いている皮脂汚れやほこりをきれいに拭き取り、日陰で2~3日乾燥させましょう。時計の動きが止まったらケースに入れて保管してください。
使い始めるときも注意が必要です。使わない間に部品に付いていた油が切れている場合があります。そのまま時計を動かすと摩擦が起きやすくなり、故障につながりかねません。使い始める前に一度オーバーホールに出すと、万全の状態で着用することができます。
一生愛用できる自動巻き時計を楽しんで
自動巻き時計は、巻き上げたぜんまいが戻る力をエネルギーとして動く時計です。自動巻き時計には時計の心臓部であるムーブメントが搭載されており、身に着けているだけで中のローターを動かして自動でぜんまいが巻き戻る構造のため、電池交換や、自分で巻き上げる手間も掛かりません。
また常に自動でぜんまいを巻き足すため、ゆるみの影響を受けにくく、高い精度で時間を表示することが可能です。この仕組みは高級時計を販売する多くのブランドで採用されています。
自動巻き時計は一生ものの時計です。メンテナンスが必要になるなど注意点にも目を向けて、長く愛用できる時計を選びましょう。
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この記事の監修
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