機械式腕時計には、世界三大複雑機構(世界三大コンプリケーション)と呼ばれる機構が存在します。「永久カレンダー(パーペチュアルカレンダー)」「ミニッツリピーター」「トゥールビヨン」のワードは、腕時計愛好家なら一度は聞いたことはあるのではないでしょうか。
わずか直径数センチの機械式腕時計の中に、想像もつかないほど複雑な構造が時計職人の技術や叡智の結晶として詰まっていると考えると、誰もがロマンを感じるものです。加えて、その歴史や仕組みを理解すると、さらに愛着を持って着用できるでしょう。
そこで本記事では、世界三大複雑機構の一つに数えられるトゥールビヨンをテーマに、起源・歴史などの概要や仕組み、種類、実用性などを解説します。記事後半では、当店で取り扱いのあるトゥールビヨン搭載モデルに加えて、メンテナンスについても解説いたします。ぜひご一読いただき、参考にしていただけると幸いです。
トゥールビヨンとは?
フランス語で「渦」を意味するトゥールビヨンは、時計の技術を200年進めたと呼び声の高い天才時計師アブラアン・ルイ・ブレゲによって開発されました。
そのメリットは、腕時計にかかる重力の影響を均一化し、精度を安定化できる点。
また、トゥールビヨンは上記の効果に加えて、機械式腕時計にこだわり抜かれたデザイン性を提供している点も特徴です。ダイアル上で回転し続けるトゥールビヨン機構を楽しめるのは、伝統的な機構ながら高い人気を集め続けている理由と言えるでしょう。
このトゥールビヨンは、音で時刻を教えてくれる「ミニッツリピーター」、日付調整が不要で閏年も自動で調整してくれる「パーペチュアルカレンダー(永久カレンダー)」と合わせて、世界三大機構に数えられています。
トゥールビヨンの起源と歴史
トゥールビヨンの起源と歴史は、1800年頃にまで遡ります。この当時は、腕時計ではなく機械式の懐中時計が使われていました。ポケットに入れて携帯するのが一般的だったので、自ずと重力に対して垂直になります。
このとき、機械式腕時計に正確さをもたらす部品であるヒゲゼンマイが、重力の影響を受けてしまうために、精度が安定しない問題がありました。
この「姿勢差」と呼ばれる重力による誤差を解消するために開発されたのが、トゥールビヨンです。時計の向きが変わるとヒゲゼンマイが規則正しく収縮できなかったのがネックでしたが、絶えずヒゲゼンマイを回転させ続けることで、重力の影響を分散させることに成功したのです。
トゥールビヨン構造と仕組み
トゥールビヨンでは、機械式腕時計の精度を担保するヒゲゼンマイやアンクル、ガンギ車、テンプなどの部品を「キャリッジ」と呼ばれるケースに収納しています。このキャリッジを1分間に1回転させることで、部品にかかる重力をうまく均一化しているのです。
また、この1分間に1回転する機構を活かし、スモールセコンドの役目を与えているモデルも登場しています。
なお、これはトゥールビヨンの基本的な構造であり、ダブルトゥールビヨンや、フライングトゥールビヨンなど、応用的な構造を採用しているモデルもあります。
機械式腕時計とトゥールビヨンの違い
一般的な機械式腕時計も、ヒゲゼンマイやアンクル、ガンギ車、テンプなどの部品から構成されていますが、トゥールビヨン搭載モデルとは根本的に仕組みが異なります。
機械式腕時計では、動力が一番車から二番車、三番車、四番車を介して脱進機と調速機に伝わります。一方でトゥールビヨンの場合は、固定された四番車の上にアンクル・テンプ・ガンギ車などをひとまとめにしたキャリッジが乗っている点が特徴。言い換えると、姿勢差の解決のためには、一から腕時計を設計し直す必要があったのです。
トゥールビヨンの種類
一口にトゥールビヨンといっても、その種類はいくつかあります。代表的な以下の3つのタイプをご紹介します。
・ノーマルトゥールビヨン
・フライングトゥールビヨン
・ジャイロ(多軸)トゥールビヨン
ノーマルトゥールビヨンは、脱進機を含めた周辺の部品をキャリッジに収納し、ムーブメントの両サイドからブリッジで固定する、一般的なタイプです。従来は高級腕時計にのみ採用されていた機構ですが、技術の発展により多くの腕時計に搭載されるようになりました。
伝統的で洗練されたスタイルに加えて、応用のしやすさも魅力の一つです。後述する「フランクミュラー ヴァンガード グラビティ V45TGRAVITYCS TTNRBRTT」にはノーマルトゥールビヨンを応用したオフセットトゥールビヨンが搭載されており、宙に浮かんでいるように回転しながら移動します。
フライングトゥールビヨンは、その名の通り、キャリッジが浮いているように見えるトゥールビヨンです。ブリッジを無くす、片側のみに備える、細くするなどブランドそれぞれの工夫で、キャリッジに浮遊感を演出しています。回転するキャリッジの様子をありのまま楽しめる点が人気の理由で、近代では多くのトゥールビヨンモデルに採用されつつあります。
しかし、ノーマルのトゥールビヨンと比較してキャリッジを支える部分が減っている分、キャリッジの軽量化が必要になるなど、高度な技術を要します。
ジャイロ(多軸)トゥールビヨンは、2004年にジャガー・ルクルトによって製造され、3D球体トゥールビヨンとも呼ばれています。キャリッジが球体となっており、3軸により多方向に回転することで、重力の影響をより分散させる仕組みです。仕組みが非常に複雑で、製造には高い技術力が必須。しかしながら、その複雑難解な動きは時計ファンたちの心を掴んで離しません。
トゥールビヨンの実用性は?
トゥールビヨンは元々、懐中時計が重力に影響されず正確に時を刻むように開発された機構です。開発背景を知ると「腕時計にトゥールビヨンは必要なのか」という疑問が生まれますが、端的にいえば、腕時計にとって別段有効なわけではありません。特に現代の機械式腕時計は技術の発展により、姿勢差による時刻のずれの問題は大きく改善されているので、機能面で高い実用性をもたらすことはないとされています。
しかしそれでも、多くの腕時計メーカーはトゥールビヨン搭載モデルをリリースしています。これは、電子機器で囲まれた現代社会へのアンチテーゼと解釈できるでしょう。便利さのみを追求するのではなく、ロマンやステータスなど定量的に測れない指標を通して、高級腕時計は所有者の心を満たしてくれるアイテムと言えるのです。
加えて、複雑な構造を持つトゥールビヨンを製造することは、ブランドの技術力の証明にもなります。今後も時計産業や腕時計文化が廃れない限り、トゥールビヨンは発展を続けることでしょう。
トゥールビヨンはなぜ高い?
トゥールビヨン搭載モデルは、以下の特徴があります。
・極めて複雑な構造である
・高い技術力を要する
・審美的で洗練されたデザインである
こうした特徴があるため、製造にはもちろん非常に高いコストがかかります。
そのため、トゥールビヨン搭載モデルは一般的な機械式腕時計に比べ、価格が高い傾向にあります。1千万円を超えるモデルも珍しくなく、そういった面では着用者のステータスの象徴にもなるでしょう。
トゥールビヨン搭載モデルおすすめ2選
トゥールビヨンの概要や仕組み、実用性などを押さえたところで、当店で取り扱いのあるトゥールビヨン搭載モデルをご紹介します。
さまざまなモデルがありますが、ここでご紹介するのは「シチズン カンパノラ トゥールビヨンNZ3000-19P」「フランクミュラー ヴァンガード グラビティ V45TGRAVITYCS TTNRBRTT」の2つです。
シチズン カンパノラ トゥールビヨンNZ3000-19P
シチズンは1918年に誕生した、「市民に愛され市民に貢献する」を企業理念に掲げる国産の腕時計ブランドです。同ブランド至高のシリーズ「ザ・シチズン(THE CITIZEN)」や、わずかな光を動力に時を刻む「エコ・ドライブワン(エコ・ドライブ ワン)」など数多くのモデルをリリースしてきました。
そんなシチズンが展開する「カンパノラ(CAMPANOLA)」は、シチズンの高い技術力と意匠性を踏襲している一大ブランドです。ここでは、そのハイエンドコレクションである世界限定5本モデル「NZ3000-01L カンパノラ グローバルアートコレクション – 天(TEN)-」をご紹介します。
同モデルの文字盤は、日本の伝統工芸士により手掛けられており、時の根源である宇宙が壮大に表現されています。星々は螺鈿細工によって表現。プラチナ粉を蒔いて研ぎ出すことで、青い漆の文字盤に星雲を描いています。
搭載されているフライングトゥールビヨンムーブメント「CAL.Y392」の製造元は、シチズンが2012年に傘下にしたプロサー社の子会社にあたる「ラ・ジュー・ペレ」。これまでに数々のスイスウォッチブランドにムーブメントを供給してきた、名門ブランドです。このムーブメントは、キャリッジのみで52個もの部品を使うほど複雑な構造でありながら、一般的なトゥールビヨンと比較して厚みは半分程度に抑えています。6時方向に設置された窓から内部構造を確認できるので、飽きることなくいつまでも細部の動きを楽しめるでしょう。
また、徹底して無駄が排除されている点もポイント。部品加工から装飾に至るまで細部にまで強いこだわりが見られ、古くから現代にまで受け継がれてきたスイスの時計文化の伝統を体感できるでしょう。
繊細なトゥールビヨンを包み込むのは、18金ホワイトゴールドのケースです。白く輝くケースは、芸術品にも引けを取らないほどの美しさを放っています。
バックはシースルーになっており、内部構造を見ることができます。ムーブメントの表面は黒メッキ加工が施されており、惑星や恒星、衛星が散りばめられた壮大な宇宙を彷彿とさせるでしょう。
スペックや価格などの詳細情報が気になる方は、以下の記事を参考にしてください。
【カンパノラ グローバルアートコレクション「天-TEN-」「地-CHI-」】カンパノラ渾身のトゥールビヨンモデルをご紹介
フランクミュラー ヴァンガード グラビティ V45TGRAVITYCS TTNRBRTT
フランクミュラー(FRANCK MULLER )は、時計産業で有名なスイスで1992年に創業した高級腕時計ブランドです。腕時計ブランドの中では比較的歴史は浅めですが、これまでに数多くの有名モデルをリリースしており、時計愛好家で知らない人はいない程の知名度を誇ります。
「フランクミュラー ヴァンガード グラビティ V45TGRAVITYCS TTNRBRTT」は、フランクミュラーのニュースタンダード「ヴァンガードコレクション」の一本です。コンパクトに集約された時間表示と、惑星が宇宙空間を漂っているかのようなオフセットトゥールビヨンの組み合わせは、既存の枠にとらわれない新しい感覚をもたらします。また、ダイアルの下半分のほとんどがスケルトンになっている本機は、一般的なトゥールビヨンとは全く異なる個性を備えており、重力の制約を極限まで減らすことへの飽くなき探求心が垣間見えるでしょう。
機能とビジュアルの両面でトゥールビヨンとしての完成形を目指しながらも、古典的な腕時計にインスピレーションを受けたフォルムは、美しく流線を描き、スポーティーに仕上がっています。堅牢なリュウズが組み合わされたインデックスからは、先進的な雰囲気が漂います。
文字盤や内部構造を包み込むのは、PVD加工が施されたチタニウム製のブラックケースです。セラミックの被膜が美しくコーティングされており、ツヤのある魅力的な輝きを放っています。もちろん見た目だけでなく、耐食性・耐摩耗性に優れており、機能面でも高い性能を誇ります。
「フランクミュラー ヴァンガード グラビティ V45TGRAVITYCS TTNRBRTT」の機能や価格などの詳細情報は、以下のページで解説しているので、興味のある方はぜひ参考にしてください。
トゥールビヨンのメンテナンスと修理
極めて複雑な機構であるトゥールビヨンは、熟練の時計師が丁寧に作り上げています。部品数も多く内部構造も複雑なので、クリーニングやオーバーホールなど、定期的なメンテナンスは欠かせません。
時計のメンテナンスを依頼できるところは多岐にわたりますが、仕組みが複雑なトゥールビヨンの場合、信頼できる正規販売店もしくは正規代理店に依頼するのがおすすめです。トゥールビヨンのメンテナンスの経験が少ない修理業者に依頼してしまうと、適切な修理が難しい可能性があります。注意すべきでしょう。
トゥールビヨン搭載モデルは高い技術力の証明
本記事では、トゥールビヨンの概要や構造・仕組み、種類などを幅広く解説しました。世界三大複雑機構の一つに数えられるトゥールビヨンは、優れた機能性はもちろん、高い意匠性で装着する人の心を奪います。
せっかくトゥールビヨンの腕時計を購入するなら、機能性とデザイン性が高く、信頼のおけるブランドがリリースしたモデルがおすすめです。いずれも多少値段は張りますが、愛着をもって着用でき、手元に最大級のラグジュアリーを演出してくれるトゥールビヨンからは、価格以上の価値を感じられるでしょう。
今回紹介したモデルに限らず、トゥールビヨン搭載の腕時計の購入を検討されている方は、ぜひ高級時計正規販売店HARADAをご利用ください。
また、当店では、なかなか購入に踏み切れないお客さまに向けて豊富なお支払方法のご案内や、長く愛用していただけるよう腕時計専用保険を利用した保証プランをご案内しております。まずは、お気軽にお問い合わせください。
この記事の監修
- 時計は単なる時間を知るためのツールではなく、個性やスタイルを表現する大切なアイテムであるという信念のもと、ハラダではお客様一人ひとりのライフスタイルに合った時計を提案し、長く愛用できる商品選びをサポートしています。
当ブログでは、最新の製品レビュー、メンテナンスのコツ、時計に関するトリビアなど、腕時計に関する多岐にわたる情報を提供しています。
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