グランドセイコーが独自に生み出した「スプリングドライブ」。機械式・クオーツ式に続く第3のムーブメントとして注目を集めていますが、スプリングドライブ購入後に後悔するケースはないのか、気になる方もいるでしょう。
そこで本記事では、スプリングドライブの仕組みや精度とともに、購入後の後悔につながる可能性があるデメリットを紹介します。おすすめのスプリングドライブも紹介するので、時計選びの参考にしてみてください。
セイコー スプリングドライブの仕組み
スプリングドライブは、機械式とクオーツ式の利点を併せ持つハイブリッド型のムーブメントです。動力に機械式時計の主ゼンマイがほどける力を利用し、時間の制御(調速)にクオーツを使うことで、高い精度を実現しています。
まずは、グランドセイコーが20年以上もの歳月をかけて独自開発したスプリングドライブが、どのような仕組みなのかを詳しく見ていきましょう。
動力はゼンマイがほどける力
スプリングドライブは、機械式時計と同じく動力に主ゼンマイがほどける力を利用しています。クオーツ式の電池を動力とするよりも歯車の回転パワーが強いのが、ゼンマイを動力源とする時計の特徴です。
スプリングドライブは電池を動力としていないため、電池交換やモーターが不要というメリットがあります。メンテナンスをすれば半永久的に使えることや、太く重厚な針を動かせるのも、ゼンマイを動力源としたスプリングドライブの魅力です。
なお、機械式時計は、テンプやアンクル・がんぎ車で構成される調速機構を通じて一定の動きに保たれています。機械式時計が発明された当初から基本構造が変わらず、現代に受け継がれる仕組みです。
時計の動きを制御するのはクオーツ
スプリングドライブは機械式時計と違い、時間を制御する「調速」にクオーツ(水晶振動子)を用いています。機械式時計に備わっているような、テンプやアンクルから成る調速機構はありません。
一般的なクオーツ式時計は、電池を用いて水晶振動子に電圧をかけて発振させ、IC回路が振動の周波数を読み取ることで正確に時を刻む仕組みです。水晶振動子とICの電気信号によって時計の動きを制御しており、機械式時計よりも格段に高精度で調速できるメリットがあります。
また、スプリングドライブの動力はゼンマイのほどける力ですが、調速にクオーツを用いることで、月差±15秒と機械式よりもはるかに精度の高い調速を実現しています。
機械式時計のテンプやアンクル・がんぎ車による調速では、高精度のムーブメントでも日差+8〜1秒が生じますが、スプリングドライブはゼンマイの動力の一部をローターに伝えて発電させ、水晶振動子とICを動かす技術を用いているので、クオーツ式の制御システムを可能にしたわけです。
水晶振動子は、ゼンマイからローターを通じて発電した電圧により3万2,768回/秒の信号を発します。ICがその信号とローターの回転速度を電磁ブレーキで一定に保ち、正確な動きを生み出す仕組みです。
スプリングドライブを選ぶと後悔する?
機械式とクオーツ式のメリットを併せ持つスプリングドライブも、デメリットを知らずに選ぶと後悔するケースもあります。後悔の原因には「極薄型のモデルは作りにくい」「メーカー以外でメンテナンスができない」「機械式の魅力である音が楽しめない」の3点が挙げられるでしょう。
スプリングドライブのデメリットをメリットと共に把握しておくと、後悔しない腕時計選びに繋がりやすいはずです。
メーカーでないとオーバーホールができない
スプリングドライブの大きなデメリットとして挙げられるのが、メンテナンスのしにくさです。
機械式時計に近い構造のスプリングドライブは、年月の経過とともに部品や潤滑油が劣化するため、定期的なメンテナンスとしてのオーバーホールが欠かせません。
通常の機械式時計はメーカー以外でもオーバーホールはできますが、スプリングドライブにはセイコーの正規店でないと難しい事情があります。スプリングドライブはセイコーが独自開発した駆動方式で、部品の流通量が少ないのに加え、電子部品の交換数も多くなるためです。どこにでも頼めるわけではないと知らずに購入すると、メンテナンスのたびに正規店に依頼する手間が後悔につながる可能性があります。
オーバーホールは、グランドセイコー公式の「コンプリートサービス」を利用しましょう。ただしコンプリートサービスの利用には、保証書か保証カードが必須な上、メンテナンスには3~6週間の時間がかかります。
メンテナンスのコストも高め
同じセイコーの機械式時計やクオーツ式時計よりメンテナンス費用が高めな点も、スプリングドライブの難点です。
スプリングドライブに用いられる部品数は、3針モデルで200以上、クロノグラフモデルでは400以上にも上ります。通常のメンテナンス費用よりも高額になるのは、部品数が多く複雑な時計を職人の手で一つひとつ調整するためです。
スプリングドライブを長く使い続けるには、機械式と同様に3〜5年を目安にオーバーホールする必要があります。定期的なメンテナンスが欠かせないため、初期費用に加えて維持費が高くなることも把握しておきましょう。
追記:
グランドセイコーのサービスについて価格改定が行われた結果、スプリングドライブと機械式時計のオーバーホール料金が同額となりました。そのため、一概にメンテナンス面でデメリットがあるとは言えないでしょう。
機械式時計のような音が楽しめない
スプリングドライブは、機械式時計ならではの「カチカチ」という音を楽しみたい方にとっては物足りない可能性があります。
機械式時計はステップ運針(ビート運針)で、1秒ずつ時を刻む秒針の音を楽しめるのがメリットです。対してスプリングドライブはクオーツ時計と同じ「スイープ運針」で、秒針が止まることなく滑らかに動きます。
時が流れるように針が動くのがスイープ運針の特徴ですが、静かすぎるゆえに、機械式時計の趣のある音を期待して購入すると後悔するかもしれません。スプリングドライブモデルは機械式時計と構造こそ似ていますが、機械式時計の魅力を全て感じられるわけではないことを理解しておきましょう。
スプリングドライブを選ぶメリット
以上でデメリットを説明しましたが、スプリングドライブはクォーツと機械式のハイブリッドを実現したムーブメントです。それぞれの良いところどり叶えているため、多くのメリットを備えているのです。ひとつずつその魅力を確認してみましょう。
1日1秒もズレない高精度
先述の通り、スプリングドライブはクォーツ式と同様に水晶振動子を使って精度を調速しているため、その精度は機械式を遥かに上回ります。
電池を使わないゼンマイ駆動の腕時計として、1日1秒もズレない精度というのはまさに驚異的。世界で初めてクォーツ式腕時計を実現したセイコーの技術力が遺憾無く発揮されたと言えるでしょう。
また、テンプを持たないその構造上、腕時計の向きによって精度が変わる姿勢差が無く、携帯時にも非常に安定した高精度を誇ります。
グランドセイコーのウォッチメイキングの根底には、腕時計の理想の追求があります。精度は腕時計の性能を測る上で真っ先に上がる要素であり、そこをゼンマイ駆動という枷の中で追求したスプリングドライブは、ロマンを重視する愛好家にとっても魅力的に映るはずです。
止まることなく進む、真のスイープ運針
クォーツ式時計が1秒ずつ秒針を進めるステップ運針であるのに対し、機械式時計は1秒を3〜5回に分けて、細かく刻みながら針を進めます。このような機械式時計の運針は、細かく刻むことからビート運針、またはその滑らかな動きから「スイープ運針」と呼ばれています。
一方、スプリングドライブは、ゼンマイの解けるスピードを止めているのではなく、遅くしているだけであるため、その運針は機械式時計のような細かな「刻み」すらありません。文字盤の上を流れるように進む、真のスイープ運針を実現しています。
その滑らかな動きはずっと眺めていたくなるような情緒すら備えており、豊かなグランドセイコーの文字盤表現とも相性抜群。スプリングドライブであることが一目でわかる、魅力的な要素と言えるでしょう。
ムーブメントによる運針の違いは動画で確認してみてください。
機械式時計より衝撃に強い
機械式時計が故障する要因の一つである衝撃などの外圧に強いことも、スプリングドライブの魅力にあげられます。
機械式時計は強くぶつけたり、激しく動かしたりするシーンを想定して作られていません。衝撃を受けるとテンプの振り角が変わったりヒゲゼンマイが変形したりする可能性があります。また、テンプやアンクル・がんぎ車は互いの部品が接触・衝突しながらゼンマイを調整しているため、摩擦による損傷も避けられません。
対してスプリングドライブは水晶振動子とIC回路で調速する仕組みで、機械式時計のような調速・脱進機構がない分だけ耐衝撃性に優れています。強い衝撃を受けても狂いにくい性質から、スポーツウォッチやダイバーウォッチにも用いられています。
磁気の影響を受けにくい
機械式時計に比べて磁気に強いのも、スプリングドライブのメリットです。金属のパーツを多く使う機械式時計は、磁気の影響を受けやすいデメリットがあります。磁気の影響を受けると時計が狂い、磁気抜きをしなければ正常に戻りません。また、クォーツ式時計も同様で、針を進めるステップモーターは電磁石を利用しているため、磁石の影響を強く受けてしまいます。
スマートフォンやパソコンなど磁気を発するものは身近に多々あり、機械式時計は知らず知らずのうちに磁気を帯びてしまいます。とはいえ、時計を磁気にさらさない生活をするのも限界があるでしょう。
その点、スプリングドライブは構造が機械式時計に近いとはいえ、磁気の影響を受けやすいテンプを使っていません。また、クオーツ時計で磁気を帯びやすいステップモーターもないため、磁気による故障が少なく、使い続けやすいという魅力があるのです。
ただし、強い磁気にさらされたり長時間磁気を帯びたりする環境下では異常が起きる可能性もあるため、必要以上に電子機器に近づけるのは避けましょう。
扱い方次第で一生使える
正しく扱えば一生ものとして使えるのも、スプリングドライブモデルを選ぶメリットです。
クオーツ式の場合は、内部の電子回路に7〜10年程度の期限があり、寿命が来たら新しい時計を買うか、部品を交換する必要があります。対して電子回路を用いないスプリングドライブは、機械式の時計と同様に正しくメンテナンスをしてさえいれば、半永久的な使用も可能です。
クオーツ式に並ぶ高精度を備えながらも、一生ものにもなり得るスプリングドライブは、同じ時計を長く愛用したい方にとって大きな魅力になるでしょう。
スプリングドライブの寿命を延ばすポイント
スプリングドライブはクオーツ時計よりも寿命が長く、年齢を重ねながら愛用できる時計です。しかし、何もせずに使い続ければ劣化が進み、反対にほとんど動かさずに放置していても、油が固着して動きにくくなります。
スプリングドライブの寿命を延ばすためにも、次の2点のポイントを意識して使いましょう。
・使っていなくても定期的に巻き上げる
・3~5年を目安にオーバーホールに出す
あまり使わない場合でも、定期的に巻き上げて動かしておくと油の固着を防げます。また、劣化が進んでメンテナンスが難しくなるのを避けるためにも、3~5年を目安にオーバーホールに出すのが基本です。
定期的に動かしたりメンテナンスしたりと扱い方に気を付けることで、スプリングドライブの寿命を延ばせます。
スプリングドライブは10年で修理してもらえなくなる?
グランドセイコー及びセイコーは、部品の最低保管年数を10年に設定しております。そのため、かつてセイコーで採用されていた7Rスプリングドライブなどについては、修理対応してもらえない場合があります。
しかしながら、グランドセイコーブランドのスプリングドライブに関しては、10年間を超えた長期間の修理、部品交換を可能としています。そのため、グランドセイコーのスプリングドライブは、長期間にわたって安心して着用できるのです。
注目のスプリングドライブ
スプリングドライブの数あるラインナップの中から、機能面・デザイン面で気に入る1本を選びましょう。
スプリングドライブモデルから、2023年の新作を含む注目の時計を紹介します。
SBGA211 Grand Seiko グランドセイコー 9Rスプリングドライブ
SBGA211 Grand Seiko グランドセイコー 9Rスプリングドライブは、通称「雪白(ゆきしろ)」と呼ばれるスプリングドライブの人気モデルで、平均月差±15秒と高い精度が魅力です。
白く輝く雪面の雪模様を表した純白のダイヤル上では、晴れた空を思わせるブルースチールの秒針が、流れるような時を表現しています。
軽くて耐傷性・耐食性に優れるブライトチタンを、ケースとブレスレットに採用。重くなりがちなスプリングドライブの軽量化を実現し、わずか100gと軽い着け心地に仕上げました。主張しすぎない軽やかな存在感があり、スーツはもちろんシンプルなカジュアルスタイルとの相性も抜群です。
横41.0mm、縦49.0mm、厚さ12.5mmの扱いやすいケースサイズで、パワーリザーブは約72時間(約3日間)となっています。
SBGA211 Grand Seiko グランドセイコー 9Rスプリングドライブ
【グランドセイコー SBGA211 SBGA011】 一番人気モデル「雪白」の魅力を再確認!
SBGA373 Grand Seiko グランドセイコー 9Rスプリングドライブ
SBGA373 Grand Seiko グランドセイコー 9Rスプリングドライブは、セイコースタイルの基礎となった「44GS」を現代デザインにし、スプリングドライブを搭載したモデル。セイコーならではの高度な技術と匠の職人技を、余すことなく用いて作られているのが特徴です。
シャンパンゴールドのダイヤルには、特殊技術を用いた厚銀放射仕上げによって、柔らかく細かな放射模様を表しています。流れるようなスイープ運針に、職人技によって作られる青焼き仕上げのブルースチール秒針を採用。高度な技術を要するザラツ研磨をケースに施し、美しい光沢に仕上げています。
ケースは横40.0mm、縦46.0mm、厚さ12.5mmと存在感がありながらも着用しやすいサイズです。パワーリザーブは約72時間(約3日間)、平均月差±15秒と高い性能を誇っています。
SBGA373 Grand Seiko グランドセイコー 9Rスプリングドライブ
グランドセイコー SBGA373【シルバー文字盤 スプリングドライブ式腕時計】 – YouTube
SBGA481 Grand Seiko グランドセイコー 9Rスプリングドライブ
SBGA481 Grand Seiko グランドセイコー 9Rスプリングドライブは、凛々しく猛々しい獅子を表現したデザインが特徴です。
シャイニーホワイトのダイヤルには獅子のたてがみを表現した有機的なデザインを取り入れ、幅の広いインデックスや針を採用して力強さを表現しています。
さらに、ケースは金属の塊のエッジを切り落としたようなデザインで獅子の爪を体現。ケースやブレスレットはブライトチタンで、軽量な装着感ながらも重厚感のある仕上がりです。
ケースは横44.5mm、縦50.0mm、厚さ14.3mmと存在感を放つサイズで、パワーリザーブは約72時間となっています。平均月差±15秒の精度、20気圧防水と性能の高さも魅力です。
SBGA481 Grand Seiko グランドセイコー 9Rスプリングドライブ
【グランドセイコー SBGA481】獅子のたてがみを身に着ける贅沢なスポーツウォッチ
正規販売店ハラダならメンテナンス面もサポート!
グランドセイコーサロンである当店で腕時計をご購入いただいたお客さまには、コンプリートサービスを特別価格でご案内しております。
腕時計のご購入時に通常の保証書とは別にメンテナンスサポートカードをお渡ししますので、こちらを公式メンテナンスのご依頼の際にご提示いただければ、匠の技術によるメンテナンスサービスを通常よりお手頃な価格でご利用いただけます。
スプリングドライブで気になるメンテナンス面を支えてくれるこのカードは、一部の販売店のみが認定される、グランドセイコーサロンならではのメリット。お気に入りのグランドセイコーを末長くご愛用いただくためにも、グランドセイコーご購入の際はぜひ当店にご相談くださいませ。
デメリットを知って後悔しないスプリングドライブ選びを
スプリングドライブは機械式時計と同じくゼンマイを動力源としながら、クオーツとIC回路を制御システムに採用したハイブリッド型のムーブメントです。
セイコー独自開発で生み出された高度な技術を要する機構のため、メンテナンスのしにくさが購入後の後悔につながる可能性があるでしょう。静かすぎる秒針に魅力を感じない方にもおすすめできません。
しかし、駆動機構や精度・デザインがハイクオリティなスプリングドライブは、身に着ける人を一層引き立てる時計です。定期的なメンテナンスを施せば長く使えるため、コレクションや一生ものの時計を求めている方も満足できるでしょう。
スプリングドライブには、デメリットを補うメリットも多くあります。購入を検討しているなら、本記事で紹介したおすすめモデルを参考に選んでみてください。