【グランドセイコー SLGA009搭載ムーブメント】白樺スプリングドライブの心臓「Cal.9RA2」をご紹介
グランドセイコーが独自に生み出した機械式とクォーツ式のハイブリッドのようなムーブメント「スプリングドライブ」は、ブランドの60周年にこれまでの常識を覆す新たな進化を見せました。それが「Cal.9RA2(9RA5)」の登場です。
これまでのスプリングドライブとは一線を画すそのスペックはもとより、数量限定ダイバーズウォッチ「SLGA001」に搭載されたことでその強固さ、安定性も証明されています。
当記事ではこのグランドセイコーの最新鋭スプリングドライブムーブメントの性能について詳しくご解説いたします。
※CAl.9RA2と9RA5の違いはパワーリザーブ表示機能の違い(表面か裏面)だけになります。よってこちらの記事では白樺スプリングドライブ「SLGA009」にも搭載されているCal.9RA2を中心にご紹介いたします。
SLGA009について詳しくはこちらの商品詳細ページでも紹介しております。
目次
グランドセイコーの独自機構9Rスプリングドライブとは
最新鋭のスプリングドライブについてご紹介する前に、まずスプリングドライブとは一体どういうムーブメントなのか、改めてご紹介したいと思います。
まず、スプリングドライブは機械式と同じくゼンマイで動くムーブメントです。
機械式と異なる点は、その精度の制御に脱進機ではなくクォーツとIC(集積回路)を採用している点。ICには電動力が必要ですが、スプリングドライブはゼンマイの解ける力を利用して発電しているためゼンマイだけでICを動かすことができます。
それによりスプリングドライブはゼンマイ駆動の腕時計としては破格の精度を備えており、それでいて機械式と同様に高いトルクを実現しているのです。
そしてスプリングドライブといえば、その滑らかな運針にも触れておくべきでしょう。
腕時計の秒針の運針は機械式時計のように1秒を短く刻むビート運針か、クォーツ式時計のように1秒ずつ動くステップ運針が主流です。
しかし、スプリングドライブの運針は一切止まることなくすべるように時を刻む「スイープ運針」と呼ばれるような動き方をします。
スイープ運針を動画に収めました!その滑らかな動きをぜひ動画でご覧ください。
スプリングドライブは機械式時計のようにぜんまいを動力源とし、クォーツ式時計のように水晶振動子を用いて時計の精度を制御する、機械式とクォーツ式のハイブリッドのようなムーブメントです。 改めてスプリングドライブの機構にフォーカスをあてて記事にまとめてみました。https://t.co/PbyLxUO75K pic.twitter.com/akQJc95dYQ
— 時計 宝飾 眼鏡 ハラダ (@kk_harada) August 20, 2021
これはスプリングドライブがゼンマイの解けるスピードに電磁石を使ってブレーキをかけているためであり、機械式やクォーツ式と違って歯車が止まらないため、その運針も止まることのない滑らかな運針となっているのです。
もちろん、スプリングドライブにもいくつか欠点はあります。
まず、スプリングドライブは部品数が非常に多く熟練の職人による手作業でないと組み上げられません。高い技術力を要するために製造の自動化が困難なのです。
また、部品数が多いためどうしても腕時計が厚くなりがちです。
しかしこれらの欠点を踏まえた上でも、高い実用性と日本が誇るグランドセイコーの独自ムーブメントという点でスプリングドライブは国内外問わず高い評価を得ています。
スプリングドライブムーブメント
Cal.9RA2の詳細スペック
さて、ここからはそんなスプリングドライブの上位モデルである「Cal.9RA2」について、その革新的機構を踏まえながらご紹介いたします。
まずはそのムーブメント仕様から見ていきましょう。
ムーブメント仕様
巻上方式 | 自動巻(手巻つき) |
---|---|
精度 | 平均月差±10秒(日差±0.5秒相当) |
駆動時間(最大巻上時) | 約120時間(約5日) |
石数 | 38石 |
その他 | ・オフセットマジックレバー ・デュアルサイズバレル ・ワンピースセンターブリッジ ・日付表示機能 ・パワーリザーブ表示機能 |
特筆すべきはその精度とパワーリザーブ(駆動時間)でしょう。
一般的なスプリングドライブの精度が平均月差±15秒(日差±1秒相当)パワーリザーブが約72時間(約3日間)であるのに対し、このCal .9RA2の精度は平均月差±10秒(日差±0.5秒相当)まで追い込まれており、パワーリザーブは約120時間(約5日間)まで延長されています。
このスペック面だけでもCal.9RA2が従来のスプリングドライブと一線を画していることがわかりますが、それでいて従来のムーブメントに比べて0.8mmの薄型化にも成功しています。
ここからは、このスプリングドライブの上位ムーブメントについて、その特徴や新機軸を一つずつご紹介していきます。
高精度をさらに追い込む「高精度スプリングドライブパッケージIC」
従来のスプリングドライブを上回る月差±10秒の精度。この数値の実現に大きく寄与したのが「高精度スプリングドライブパッケージIC」です。
実は、クォーツ式時計の精度の源である水晶振動子(クォーツ)は温度変化に非常に影響されやすく、同じく水晶振動子を源とするスプリングドライブでも、高精度になればなるほど温度変化への対策が必要なのです。
そこで作られたのが温度を測定して水晶振動子の誤差を自動で補正する、スプリングドライブのための集積回路「SOI-IC」です。
グランドセイコーはこのICを水晶振動子とともに真空パッケージすることにより、極めて精密な温度補正を可能にしました。
さらに3か月にもわたる水晶振動子の厳選に加え、各種配線ごと真空パッケージに封入し静電気や光による影響をシャットアウトすることで、月差±10秒という高精度スプリングドライブを実現したのです。
5日巻とコンパクトムーブメントを実現する「デュアルサイズバレル」
Cal.9RA2は、従来のスプリングドライブのパワーリザーブを大きく上回る120時間連続駆動、つまり5日巻を実現しています。
このロングリザーブを実現したのが、ぜんまいをを収める香箱を二つ使用した「デュアルサイズバレル」です。
動力であるぜんまいの巻き上げ量が単純に増えるこの方式の採用で、Cal.9RA2は更なるパワーリザーブを確保しました。
ちなみに香箱を二つ使うこの方式はツインバレルと呼ばれ、動力の伝達効率を同じにするために2つの香箱を同じ径に揃えるのが良いとされています。
しかしCal.9RA2のデュアルサイズバレルは、名前の通り2つの香箱の径にあえて差をつけデッドスペースを減少させることに成功しています。(デュアルサイズ=2つの大きさ)。
通常、異なる径の香箱はその動力に差がでてしまうのですが、グランドセイコーは同じ効率で力を伝達できる新しい機構によって、必要最小限のサイズで高いパワーリザーブを獲得するに至ったのです。
薄型化と巻き上げ効率を高める「オフセットマジックレバー」
自動巻時計は、腕時計が日常動作の合間に揺られることで、ムーブメント裏側の回転錘がぜんまいを自動的に巻き上げる時計です。
そんな自動巻時計の中でも、セイコーの自動巻腕時計にはムーブメント裏側の回転錘が左右どちらに回転してもぜんまいを巻き上げられる「マジックレバー」と呼ばれる機構が採用されています。
このマジックレバーは自動巻における巻き上げ効率の確保に非常に役立つ機構であり、自動巻スプリングドライブにももれなく採用されてきました。
しかし、マジックレバーの搭載はどうしてもムーブメントの中心に厚みがでてしまい、薄型を目指す本機においてはマジックレバーに対しても改良の余地がありました。
そこで新たに採用されたのが「オフセットマジックレバー」と呼ばれる機構です。
詳しい説明は省きますが、この機構によりマジックレバーの軸を中心からオフセット(ずらす)することで、ムーブメント中心の厚みを分散することができるのです。
もちろん中心軸がズレたからといってマジックレバーの巻き上げ効率を落とすこともなく、この新機軸の採用で薄型化と120時間のパワーリザーブにふさわしい巻き上げ効率の両立を成し遂げています。
強固な一体感を作り出す「ワンピースセンターブリッジ」
Cal.9RA2は従来のスプリングドライブで3つのパーツに分かれていた軸受を一つのパーツに統一し、ムーブメント中央に大黒柱のように収めたワンピースセンターブリッジと呼ばれる機構を採用しています。
これは一体化により歯車間の伝達効率を高めているだけでなく、多くの輪列(歯車)が一つのパーツに収まっていることで堅牢性、耐久性、耐衝撃性の向上を実現しています。
従来よりスプリングドライブは、脱進機を採用しないことで安定した精度と外圧に対する強さを備えています。
このCal.9RA2はこのスプリングドライブのタフネスを、ワンピースセンターブリッジの採用によってさらに強化しているのです。
肌と目で実感する
最上位スプリングドライブ
Cal.9RA2はここまでご紹介してきたとおり、薄型化に対する強いこだわりを持って設計されました。
巻き上げ効率を上げつつ薄型化を実現したオフセットマジックレバーや、デッドスペースを最小限に抑えてパワーリザーブを確保するデュアルサイズバレルの採用に加えて、全ての部品を研ぎ澄ませることで従来のスプリングドライブに比べ、0.8mmの薄型化に成功しています。
さらに、Cal.9RA2はりゅうずの位置を下げることで重心をわざと低くしており、その腕なじみの良さは0.8mmという数字以上の着け心地の改善を実感できるでしょう。
また、なるべく無駄を無くしたその構造は機能美にあふれており、そこにグランドセイコーお得意の美しい表面仕上げが加わることで、Cal.9RA2はその美しい外観でも高い評価を得ています。
スプリングドライブ誕生の地 信州の豊かな自然を表現したかのような装飾は、シースルーバックからの光景をより特別なものにしてくれることでしょう。
Cal.9RA2搭載モデル「白樺スプリングドライブSLGA009」
Cal.9RA2の紹介の締めくくりとして、このムーブメントを搭載した白樺文字盤モデル「SLGA009」を紹介いたします。
この先鋭ムーブメントの搭載モデルには限定本数のものが多く、比較的簡単に手に入るレギュラーモデルはこの「SLGA009」だけになります。
外装
外装 | ステンレス 裏ぶた:ステンレスとサファイアガラス |
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ガラス材質 | デュアルカーブサファイア |
コーティング | 内面無反射コーティング |
ケースサイズ | 横 40.0mm × 縦 47.6mm × 厚さ 11.8mm |
腕周り長さ(最長) | 196mm |
中留 | ワンプッシュ三つ折れ方式 |
ムーブメント
ムーブメント | 9RA2 |
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駆動方式 | スプリングドライブ |
駆動時間 | 最大巻上時約120時間(約5日巻)持続 |
精度 | 平均月差±10秒(日差±0.5秒相当) |
機能
防水 | 日常生活用強化防水(10気圧) |
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耐磁 | あり |
重さ | 176.0g |
その他 | ・シースルーバック ・スクリューバック ・ねじロック式りゅうず ・カレンダー(日付)機能つき ・秒針停止機能 ・パワーリザーブ表示機能 ・裏ぶた獅子の紋章つき |
グランドセイコーが新たに打ち出したデザインコード「エボリューション9」にのっとって作られたそのウォッチフェイスは、光と影の巧みな使いわけによって、革新ムーブメントSLGA009を搭載するにふさわしい、グランドセイコーの審美感が存分に光るモデルとなっています。
機械式の白樺モデルである「SLGH005」と並んで高い人気を集める本機ですが、ぜひ一度手に取ってみて、グランドセイコーの誇るスプリングドライブの真髄を実感してみてください。