
グランドセイコーは、セイコーのフラグシップコレクションとして誕生し、独立を果たした現在では、国内外問わない人気を誇る国産腕時計ブランドとして知られています。
そんなグランドセイコーがここまで発展を遂げた理由には、誕生当時から続く高品質な時計製造や、実用性と美観を兼ねるデザイン表現、幅広い需要を押さえたコレクション展開などが挙げられるでしょう。当記事では、そんなグランドセイコーの特徴や魅力、代表的なコレクションについて、グランドセイコーサロンであるハラダが詳しく解説いたします。
国産腕時計の最高峰「グランドセイコー」の誕生
1956年、海外産の時計の模倣ではなく、自主的な腕時計製造の技術確立を目指していたセイコーは、初の自社設計腕時計である「マーベル」を開発します。そしてこのマーベルの成功により、国産腕時計のさらなる発展に活路を見出したセイコーは、これに改良を加えた「クラウン」を発表。そして、このクラウンをベースに、精度、品質をさらに向上させた腕時計として、1960年に発売されたのが、「初代グランドセイコー」です。

当時の初代グランドセイコーには、「世界に挑戦する国産最高級の実用時計」というコンセプトが据えられていました。当然、この頃は高級腕時計と言えばスイスが本場。そのため、世界を見据えるグランドセイコーには、それに匹敵する性能が必要だったのです。
そうして生まれたグランドセイコーの初代モデルは、当時のスイス・クロノメーター優秀規格と同一の社内検定が行われ、それをパスした個体のみが歩度証明書付きで販売されることになりました。

続く1961年には、腕時計の輸入規制の緩和が始まり、優れた腕時計が海外から多く輸入されてくることが予想されていました。その背景もあって、グランドセイコーは1960年代、技術的に大きな成長を遂げることとなります。現在のグランドセイコーで多く採用されている10振動のムーブメントや、デザイン規範であるセイコースタイルの確立、月差±1分という極めて高精度を実現したV.F.A.(Very Fine Adjusted)の誕生もこの頃のことで、誕生から10年と経たずに、実用時計の理想を追求するブランド姿勢の基盤が固められました。

そして、クォーツ式時計の台頭、機械式腕時計の復活、スプリングドライブの採用を経て、現代に至るまで発展を続けてきたグランドセイコーは、2017年についにセイコーからの独立を果たします。高級腕時計ブランドとしての地盤を固め、さらなるグローバル化の体制を整えたといっても良いでしょう。
独立後もその品質にこだわった、日本らしい腕時計つくりは健在であり、近年では国産腕時計の最高峰として、GPHGの受賞や、ウォッチワンダージュネーヴへの出展など、着実に高級腕時計ブランドとして発展を続けています。
グランドセイコーの特徴、魅力とは?
グランドセイコーには、世界に挑戦する最高峰の国産腕時計として、多くの特徴、魅力があります。ここではその代表的なものとして、「自社完結したマニュファクチュールの製造体制」、「実用性と美観を両立したデザイン文法」、「長年の愛用に寄り添うメンテナンス体制」、「豊かな文字盤表現」の4つをご紹介いたします。
自社完結したマニュファクチュールの製造体制

グランドセイコーの大きな魅力のひとつは、マニュファクチュールであることです。企画・開発から設計、製造、組み立て、調整、そして品質管理まで、全ての工程を自社で一貫して行っており、世界でも数少ない自社完結の時計製造を続けています。当然、この製造体制には高い技術力と充実した生産体制が要求されますが、グランドセイコーは「信州 時の匠工房」、「グランドセイコースタジオ 雫石」、「マイクロアーティスト工房」、そしてアフターサポートを行う「グランドセイコーサービススタジオ」の4拠点を構えることで、これを可能としています。
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これらの工房には、優れた技術を持つ職人が多く在籍しており、ゆがみのないケース仕上げを実現する「ザラツ研磨」に加え、多角カットの針、インデックス、ムーブメント内部の精巧なヒゲゼンマイの製造も、全てブランド内で行われています。
汎用ムーブメントを採用し、外装の製造のみを行うブランドも珍しくありませんが、グランドセイコーは自社で腕時計の設計開発、組み立てを完結させることで、高品質な腕時計製造を実現しているわけです。

そして、この卓越したクラフトマンシップは、工芸品、趣味モノの側面が強まる現代の腕時計において、得難い魅力のひとつとなるでしょう。ブランド誕生から現在まで引き継がれてきたその精神は、腕時計の実用性を追求する、現代のグランドセイコーになくてはならないものと言えるのです。
実用性と美観を両立したデザイン文法
グランドセイコーのデザインは、「グランドセイコースタイル」と呼ばれるデザイン文法がベースにあります。これは、1967年に誕生した往年の名機「44GS」で確立されたものであり、日本特有の美意識がその根底に据えられています。

この独自のデザイン文法は、服部時計店のチーフデザイナーによって確立されたものであり、腕時計としての実用性を追求しつつ、「燦然と輝く腕時計」を目指すものとなっています。そのために、「平面を主体として、平面と二次曲面からなるデザイン。三次曲面は原則として採り入れない」、「ケース・ダイヤル・針のすべてにわたって、極力平面部の面積を多くする」、「各面は原則として鏡面とし、その鏡面からは、極力歪みをなくす」という、3つのデザイン方針が設けられており、日本らしい美しさと実用性のバランスの取れた造形が実現されています。

こうして生まれるグランドセイコーのデザインは、目を引く奇抜さこそありませんが、普遍的かつ色褪せない魅力にあふれており、長年使っていく腕時計としてふさわしい要素と言えます。さらに、日本人らしい美意識として、屏風(びょうぶ)や障子(しょうじ)に通ずる光と陰の表現が、巧みな表面仕上げで行われており、こうしたこだわりの表現も、国産腕時計を持つ上で嬉しいものとなるでしょう。
エボリューション9スタイル

グランドセイコーのデザイン性を語る上で、2020年に誕生した「エボリューション9スタイル」の存在は欠かせません。SLGH005、“白樺”の通称で初めて採用されたこのデザインは、美意識の表現、腕時計としての実用性にフォーカスしつつ、セイコースタイルを発展させたものです。
ヘアラインを多用したグレートーンによる「光と陰の中間の美」の強調、さらに視認性の高いインデックス、針の採用、重心を落とした設計、幅広のブレスレットによる着用感の向上などがその特徴として挙げられており、セイコースタイルの美学をより深く実感できるでしょう。
豊かな文字盤表現
グランドセイコーは、セイコーの創業時代から培ってきた豊かなダイアル製造技術を誇り、型打ち、彫り、塗装を駆使した、実に多種多様なダイアルを打ち出してきました。特に型打ち文字盤については高く評価されており、雪白文字盤や白樺文字盤などがその代表的なものとなっています。

職人の手彫りによって生まれる金型を用いるこれらの文字盤は、普遍的なグランドセイコーの魅力を維持しつつも、確かな個性を演出。さらに、その上から厚くクリア塗装が施されることで、奥行きのある表情と、精密な時計つくりを可能としています。
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アフターサービスも一級品

グランドセイコーは長年にわたって、腕時計の品質を保証するために、非常に充実したアフターサービスを提供しています。2021年より5年間に延長された無償保証期間が用意される点に加え、オーバーホールや電池交換ではケースの研磨などの追加サービスを受けることもできます。
また、大きな傷、ヘコミにも対応する外装リペアポリッシュサービスを提供しており、年季の入ったモデルであっても新品に近い輝きを取り戻すことが可能です。安心して腕時計を着用することができるでしょう。

さらに、グランドセイコーでは腕時計の長年の愛用に向け、修理の対応期間を限定していません。部品の保有期間も、監督官庁によって規定されている10年を超えて保有すると宣言しており、非常に長い年月をかけて愛用できる条件がそろっているのです。高級腕時計を購入する上で、これ以上なく心強いサービスと言えるでしょう。
グランドセイコーを代表する3つのムーブメント

グランドセイコーでは、「9Sメカニカル」「9Rスプリングドライブ」「9Fクォーツ」という3つのムーブメントを腕時計に採用しています。共通する数字である「9」は、「最高峰」、「究極」を示すものであり、それぞれの卓越した性能が、世界に挑戦する国産腕時計の製造を支えています。
9Sメカニカル

9Sメカニカルは、伝統的な機械式腕時計の技術を継承するムーブメントです。その特徴には、まず優れた精度があげられるでしょう。世界的に見ても高水準な「GS基準」を制定し、それに準拠することで、1日あたり+5秒~3秒という極めて正確な1秒を刻みます。そして、そのパフォーマンスに向け、グランドセイコーは部品一つ一つを研ぎ澄まし、歯車の噛み合いの”あそび”すら許さないような精緻なものづくりを行なっています。

中でも、重要な部品であるヒゲゼンマイは、グランドセイコーの職人がひとつひとつ手作業で調整を行い、その精度が高められています。その他の部品についても、MEMSと呼ばれる精密な製造技術によってマイクロミリメートル単位で製造されており、9Sメカニカルはブランドの技術力の粋を集めた存在となっています。なお、完成したムーブメントは17日間に及ぶ精度検査の末、それをパスしたもののみが我々のもとに届くようになっており、卓越した信頼性は何ものにも変えられない魅力となっています。
9Rスプリングドライブ

セイコー独自のムーブメントであるスプリングドライブは、機械式とクオーツ式の利点を併せ持つハイブリッド型のムーブメントです。動力に機械式時計の主ゼンマイがほどける力を利用し、時間の制御(調速)にクオーツを使うことで、高い精度を実現しています。そして、9Rスプリングドライブは、より精度や実用性を高めた、グランドセイコー専用のスプリングドライブとなっています。

数多のパーツで構成されるスプリングドライブは、クォーツ式と機械式、それぞれの特長を良いところどりしたような性能を備えています。水晶振動子によって制御された精度に、ゼンマイ駆動による強いトルクの両方を備えており、正確な1秒を力強く刻み続けます。また、ゼンマイが解けるスピードにブレーキをかけるそのメカニズムから、機械式、クォーツ式のいずれとも異なる運針を見せ、すべるように文字盤の上を進みます。そのなめらかな針の動きはスイープ運針と呼ばれ、その独自性をより深く実感できるものとなっています。
9Fクォーツ

グランドセイコーはメカニカル、スプリングドライブだけでなく、クォーツ式腕時計「9Fクォーツ」も高い評価を獲得しています。そのコンセプトは、正確に時を刻み、時間を読み取りやすく、一生寄り添えること。腕時計の本質を追求することで誕生した本ムーブメントは、従来のクォーツムーブメントとは一線を画す性能を実現しています。年差±10秒に迫る精度や、トルクの強い機械式腕時計の特権であった瞬間日送り機能の実現は、その最たるものと言えるでしょう。

また、9Fクォーツには、ツインパルス制御モーターや、緩急スイッチ、バックラッシュオートアジャスト機構など、精度やメンテナンス性の向上に向けた多くの技術が盛り込まれています。そのため、自動生産が基本であるクォーツムーブメントと異なり、手作業による組み立てが要求されます。つまり、本機もまた、グランドセイコーのクラフトマンシップが息づく存在と言えるでしょう。そして、9Sメカニカル、9Rメカニカルに比べると手に入れやすい価格帯で展開されているため、グランドセイコーの1本目を選ぶ上でも好適な存在と言えます。
多彩なデザインの選択肢をそろえる4つのコレクション
グランドセイコーの腕時計は、エボリューション9スタイルを採用する「エボリューション9コレクション」、普遍的な魅力を持つ「ヘリテージコレクション」、高い機能性とデザイン性を兼ねる「スポーツコレクション」、クラシカルかつドレッシーな「エレガンスコレクション」の4つに加え、「マスターピース」と呼ばれる最上位コレクションが展開されています。ここでは、それぞれのコレクションと、その代表的なモデルについてご紹介いたします。
エボリューション9コレクション
グランドセイコーの新定番として登場したエボリューション9スタイルを採用するコレクションです。腕時計としての理想を追求するブランド姿勢が大きく反映されており、優れたデザイン性と、ハイスペックなムーブメントがいずれのモデルにも備わっています。その卓越した完成度は、グランドセイコーの次なる時代を象徴しており、近年では初の機械式クロノグラフモデルや、ブランドで50年ぶりとなるハイビートの手巻き式モデルが登場するなど、さらなる拡充を見せています。
エボリューション9コレクション:「SLGW003」

エボリューション9スタイルを採用した、初のドレスウォッチです。視認性を考慮した力強いダイアルデザインや、着用性を重んじた造形がエレガントに再構築されており、普段使いに向いたドレスウォッチに仕上がっています。ブリリアントハードチタンを採用したことによる、軽やかかつ堅牢でありながら、輝きに満ちたケースも大きな魅力にあげられるでしょう。

ムーブメントは、50年ぶりに開発された10振動の手巻メカニカルムーブメント「Cal.9SA4」を搭載しています。最大80時間ものパワーリザーブを有しているだけでなく、こはぜ、こはぜばねを再設計することで、優れた巻き心地も実現。裏蓋からのぞくその装飾は、手巻きモデルの醍醐味を実感できるでしょう。登場から現在まで人気の絶えない、卓越した完成度を誇るモデルです。
ヘリテージコレクション
グランドセイコーの中でも最もスタンダードな立ち位置にあるコレクション。汎用性の高いモデルが多くそろっており、44GSや62GSといった、過去の名機のデザイン現代風にリファインしたモデルも高い評価を獲得しています。デザイン、ムーブメントの選択の幅も広く、グランドセイコーの普遍的な魅力を実感されたい方におすすめです。
ヘリテージコレクション:「SBGA439」

ミッドナイトブルーカラーのダイアルを持つ、王道的な魅力にあふれたスプリングドライブモデルです。直径40mmの使いやすいサイズ感で、シンプルながら、ケース造形、ダイアルデザインからは実用性を重んじるグランドセイコーのこだわりが見て取れるでしょう。ムーブメントは最初の9Rスプリングドライブとして登場したCal.9R65を搭載しており、高い精度、約3日間のパワーリザーブは、シーンを問わない日常使いに適しています。
スポーツコレクション
力強くカジュアルな造形に、高い堅牢性や機能性を備えた、スポーティなラインです。クロノグラフやGMTモデル、ダイバーズウォッチなど幅広いモデルが展開されており、いずれにもプロフェッショナルの使用に適した機能性が確実に備わっています。
一方で、グランドセイコーの普遍的な魅力は健在であり、主張しすぎないそのデザイン性は、スポーティでありながら幅広いシーンに合わせやすいでしょう。
スポーツコレクション:「SBGJ277」

緑と白のバイカラーが印象的な、ハイビートGMTウォッチです。「雪渓」と呼ばれる、夏になっても雪を残す高山の渓谷をモチーフとしており、その雄大な景観を特徴的な文字盤と緑白のカラーリングで表現しています。幅広のベゼルはサファイアガラスで覆われており、その透明感と奥行きのある色合いも惹かれるものがあります。ムーブメントは、毎秒10振動による安定した精度とGMT機能を備えた「Cal.9S86」を搭載。
エレガンスコレクション
実用性を維持しつつも、クラシカルな造形と、無駄のないダイアルデザインを持ち、グランドセイコーらしいエレガントなルックスを表現したコレクションです。ドレスウォッチや、日本らしい美意識が反映されたスリムなモデル、レディースモデルなどが幅広くラインナップされています。
また、グランドセイコーは現代的なエレガンスも重宝しており、モダンとクラシックが両立した腕時計の数々は、決して古臭さを感じさせません。
エレガンスコレクション:「SBGJ273」

燃えるような赤のダイアルを持つ、ハイビートGMTウォッチです。そのデザインコンセプトは「床もみじ」。日本の伝統的な家や寺院にみられる、磨き込まれた漆塗りの床に映り込む紅葉を指し、秋の情景をダイアル内に閉じ込めた一本に仕上がっています。また、そのデザインを尊重しつつ、実用性も考慮されており、GMT機能はダイアルの内側に控えめにレイアウトされました。心臓部のCal.9S86もハイビートの安定した精度を備えており、日常使いに適しています。
まとめ
グランドセイコーは、日本の美意識と技術力を体現した、世界に誇る高級腕時計ブランドです。
時代を超えて愛される普遍的なデザイン、卓越した技術力、そして所有する人に特別な感情を与える文字盤など、多くの魅力を持っています。ぜひ、グランドセイコーの時計を手に取って、その魅力を体感してみてください。
この記事の監修

- 資格:日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
担当ブランド:Grand Seiko、NORQAIN
腕時計販売店ハラダのオンライン担当。
腕時計の撮影、オンライン上でのマーケティング全般を担当。
最新のトレンドからクラシックなモデルまで、幅広い腕時計の情報を提供し、特に日本の腕時計ブランドであるグランドセイコーの魅力を発信することに注力。グランドセイコーの精密な技術と美しいデザインについて詳しく紹介し、時計の選び方や魅力を伝える事に生きがいを感じている。