
「世界に挑戦する腕時計をつくる」という壮大な志のもと、セイコーによって1960年に生み出されたグランドセイコー。腕時計の本質を高い次元で追求するその姿勢は創業以来変わらず、伝統と品質は今日まで受け継がれています。その機械式腕時計である9Sメカニカルは、創業から積み上げられてきた、グランドセイコーの高度な時計技術と匠の技を結集した腕時計です。当記事では、その特徴やおすすめモデルについて解説いたします。
グランドセイコー 9Sメカニカルの歴史
1960年、グランドセイコーは“世界に挑戦する国産最高級の機械式腕時計”というコンセプトのもと、誕生しました。その初代モデルは、当時のスイス・クロノメーター検査基準における優秀級規格と同等の高精度を実現し、その卓越した品質を証明。セイコーの最高峰ラインとして、華々しいスタートを切ります。

そしてグランドセイコーは、続く1966年にはスイス・クロノメーター規格を上回る独自の精度基準「グランドセイコー規格(GS規格)」を策定します。これは、多様な使用環境下での安定した性能を保証するための厳格な基準で、当初は日差+6秒~-3秒、後に平均日差+5秒~-3秒へと改定される高い目標が設定されました。グランドセイコーは、「正しい時間を表示する」という腕時計の本質的な性能を突き詰めることで、着々と世界への挑戦を続けていったのです。

しかし、セイコー自身が1969年に世界初のクォーツ式腕時計「クォーツ アストロン」を発売し、時計業界にクォーツ革命が起こると、高精度・低価格なクォーツ式腕時計が時計市場を席巻します。この大きな時代の流れの中で、機械式時計は一時的に主流から追いやられ、グランドセイコーもまた、クォーツ式腕時計の製造に注力するようになります。

「9F8シリーズ」
それでも、グランドセイコーの機械式時計にかける情熱は消えることなく、復活に向けた技術開発と準備が進められました。そして1998年、グランドセイコーは新たな機械式腕時計の基準として、さらに厳格な「新GS規格(新グランドセイコー規格)」を制定。そして、これに準拠する新ムーブメント「キャリバー9S5」を開発します。長年待たれていた機械式グランドセイコーが、30年近くの時を経て、ついに復活を遂げたのです。

「9S5シリーズ」
以来、9Sメカニカルは、最新の時計製造技術と熟練した職人(匠)の技を融合させ、現代に至るまで、絶えず進化を続けています。
GSS規格(グランドセイコースペシャル規格)
9Sメカニカルでは、「新GS規格」をも上回る精度基準「グランドセイコースペシャル規格(GSS)」も存在します。これは、平均日差-2秒~+4秒という極めて高い精度基準を達成したムーブメントにのみ与えられます。その調整には、特に熟練した時計師が通常モデルの何倍もの時間をかけており、その証として文字盤には「SPECIAL」の文字が記されます。
グランドセイコー9Sメカニカルの特徴とは?
グランドセイコーの9Sメカニカルは、他ブランドとは一線を画す独自の哲学と時計技術によって支えられています。その最大の特徴には、執念とも呼ぶべき高精度への追求が挙げられるでしょう。そして、「新GS規格」に準じたムーブメントは、先端技術と職人技が駆使されているだけでなく、優れた耐久性やメンテナンス性、長いパワーリザーブといった、実用性の確保に向けた工夫も多く見られます。

グランドセイコーは、ムーブメントの設計から組み立て、検査まで手がける“真のマニファクチュール”を標榜しており、約200~300ものパーツが使用される9Sメカニカルは、それを象徴するムーブメントと言えるでしょう。
ここでは、その精密なムーブメント製造を支える、グランドセイコーならではの技術やクラフトマンシップをご紹介します。
先端技術「MEMS」の導入

9Sメカニカルの脱進機(アンクル、がんぎ車)の製造には、半導体などの超精密部品に用いられる最先端の加工技術であるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)が採用されています。これにより、0.001mm単位という極めて高い精度で軽量なパーツ製造を可能としています。
例えば、MEMSで成型されたがんぎ車は従来品より5%軽量化に成功。また、潤滑油を保持しやすい形状にすることで、部品の摩耗が早いハイビートであっても、高い耐久性が確保されています。これらの時計技術は、9Sメカニカルの高精度や、実用性を支える重要な要素と言えるでしょう。
熟練の職人による手作業

どんなに高精度なパーツも、ただ組み立てるだけではグランドセイコーにふさわしい高精度は実現できません。機械式腕時計の仕組みを熟知し、優れた技能を持つ職人たちが、1/100mm単位でパーツ同士の最適な組み合わせを探りながら、丁寧に手作業で組み上げることで、やっと新GS基準を満たす腕時計が完成するのです。

特に、機械式腕時計の精度を司る心臓部「ひげぜんまい」の調整は、熟練職人の手作業に委ねられています。一つひとつ異なる個性を持つひげぜんまいに対し、ピンセットで微細な調整を施す作業は、まさに職人技です。また、動力源であるぜんまいの力を効率よく伝達するため、歯車同士がかみ合う溝を磨く「歯磨き」と呼ばれる作業も、職人が一つひとつ丁寧に磨き上げています。これらの技術は、グランドセイコーの高精度と部品寿命の向上に欠かせません。
新GS規格

グランドセイコーが1998年に制定したこの規格では、6方向の姿勢差と3段階の温度条件下で17日間にわたる厳格な試験が課され、これに合格したムーブメントのみが、グランドセイコーの名を冠することができます。この厳密な検査は、実際の着用を想定してのことであり、こういった妥協のない精度、実用性への追求こそ、9Sメカニカルの真髄と言えるでしょう。
9Sメカニカルの多彩なバリエーション
現在、9Sメカニカルムーブメントでは、GMT機能、クロノグラフといった様々な機能や特性を持つキャリバーが展開されています。
ハイビート

グランドセイコーでは、毎時36,000振動(10振動/秒)の高振動を備えたムーブメントを、「ハイビート36000」と呼んでいます。ハイビートのムーブメントは、姿勢差をはじめとする外圧の影響を受けにくいメリットがあり、より安定した高精度の実現には理想的と言えます。
その一方で、低振動のムーブメントに比べ、部品が早く摩耗する、パワーリザーブが短くなる点などがデメリットに挙げられますが、グランドセイコーは各部品の素材を見直し、その加工精度を高めることで、ハイビートでありながら、高いメンテナンス性と安定したパワーリザーブの両立に成功しています。
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ロングパワーリザーブ

9Sメカニカルのムーブメントは、すべてが約55時間以上のパワーリザーブを備えています。仮にビジネス用の時計として、休日の間着用しなかったとしても、止まることはありません。中には、ハイビートムーブメントながら約80時間ものロングパワーリザーブを備えたキャリバーも登場しており、実用時計として申し分のない仕様と言えるでしょう。
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GMT機能

9Sメカニカルでは、時針から独立して24時間針を操作できる、GMT機能を搭載したキャリバーも登場しています。GMT針と24時間表示を組み合わせることで、盤面にふたつ(モデルによっては3つ)のタイムゾーンを同時に表示できる機能であり、スポーティな表情の演出にも役立つものとなっています。
クロノグラフ

グランドセイコーでは、創業以来、機械式腕時計のクロノグラフモデルは未登場でした。しかし、2023年のキャリバー9SC5「テンタグラフ」の登場によって、ついにメカニカルクロノグラフモデルが誕生しています。
本ムーブメントでは、さらに、約72時間のパワーリザーブと毎秒10振動の高精度が両立されており、まさに9Sメカニカルにおけるハイエンド機となっています。
手巻きムーブメント

9Sメカニカルでは、自動巻き機構を持たない手巻式のムーブメントも登場しています。その薄型の設計を活かしたドレッシーなモデルが多彩にラインナップされており、すべてのモデルで、自らゼンマイを巻き上げる楽しみを味わうことができます。また、近年では、約80時間のパワーリザーブとハイビートを両立した手巻きムーブメントも登場しています。
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グランドセイコー9Sメカニカルのおすすめ機械式モデル5選
ここでは、グランドセイコー正規販売店であるハラダが、9Sメカニカルより、おすすめモデルを5本ピックアップいたしました。サロン以上の店舗でしか購入できないモデルも含まれておりますので、ご購入はぜひ株式会社ハラダにご相談くださいませ。
9Sメカニカルの新定番「SLGH005」

SLGH005は、エボリューション9コレクションの1本で、グランドセイコーの機械式時計製造拠点である「グランドセイコースタジオ 雫石」近くの白樺林を表現したモデルです。ダイナミックな型打ち模様を持つシルバーダイアルを最大の特徴としており、統一感のある表情のなかに、白樺林の持つ静かな力強さが宿っています。

搭載するムーブメントは、メカニカルハイビートムーブメント「キャリバー9SA5」です。デュアルインパルス脱進機やツインバレルといった革新的な技術によって、36,000振動のハイビートでありながら、最大巻上時には約80時間の駆動を実現しています。
また、独自の水平輪列構造を持つその薄型設計により、SLGH005のケース厚も11.7mmという薄型のフォルムを備えました。

ケースサイズは直径40mmで、重心を落とした設計によって、着用感も良好です。さらに10気圧防水を備えており、実用性も十分。裏ぶたはシースルーバックとなっており、ムーブメントの駆動やその装飾を鑑賞できます。
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緑白カラーが魅力のスポーツモデル「SBGJ277」

SBGJ277は、スポーツコレクションに属するモデルで、その表情は夏の高山に残る雪渓の雄大な風景を表現しています。回転ベゼルに施されたグリーンと、繊細な型打ちで表現された純白のダイアルパターンが特徴で、厳しい冬から春夏へと移りゆく岩手山の雄大さと、その爽やかさを思わせます。また、スポーティな雰囲気とともに、最大3つの異なるタイムゾーンを確認できる回転ベゼルが見せる、存在感も特徴の一つです。

搭載するムーブメントは、メカニカルハイビート36000 GMT「キャリバー9S86」です。毎秒10振動(36,000振動/時)のハイビートでありながら、最大巻上時には約55時間の駆動が可能。安定性と実用性を兼ねています。さらに、異なるタイムゾーンを表示できるGMT機能に加え、日付表示機能も備えています。

ケースはステンレススティール製で、サイズは直径44.2mm、厚さ14.4mmです。20気圧の日常生活用強化防水と耐磁機能を備えており、アウトドアやアクティブなシーンでも安心して着用できます。4時位置に配置されたねじ込み式リュウズも、手首の動きを邪魔しません。
GS初の機械式クロノグラフ「SLGC001」

SLGC001は、エボリューション9 コレクションに属する、グランドセイコー初のメカニカルクロノグラフです。次世代のグランドセイコーを象徴する毎秒10振動のハイビートクロノグラフムーブメント「キャリバー9SC5」を搭載しており、約72時間というロングパワーリザーブも両立されています。

デザインは、独自のデザイン文法「エボリューション9スタイル」をベースに、スポーティにアップデートされています。特に「動きながらの使用」に着目し、直感的な使いやすさと見やすさが重視されました。ダイアルは、「グランドセイコースタジオ 雫石」から望む雄大な岩手山の山肌を表現した「岩手山パターン」が特徴。視認性を高めるため、特徴的な時分針やインデックスを備え、クロノグラフ作動時でも時刻を瞬時に読み取れるよう工夫されています。

ケースとブレスレットには堅牢で軽量なブライトチタンが採用されており、セラミックス製ベゼルが取り付けられています。ケースサイズは横43.2mm、厚さ15.3mm。日常生活用強化防水(10気圧)を備えており、シースルースクリューバックからは、ムーブメントの動きを鑑賞できます。
GSが誇る究極の手巻きドレスモデル「SLGW003」

SLGW003は、エボリューション9 コレクションに属するモデルで、約50年ぶりに開発された10振動の手巻きメカニカルムーブメント、「キャリバー9SA4」を搭載したドレスウォッチです。「エボリューション9スタイル」に則りつつも、インデックスやベゼル、ラグの細い、洗練された繊細で優美なデザインに仕上がっており、広々としたダイアルでは、岩手県にある平庭高原の白樺林の樹皮の美しさが表現されています。

搭載する「キャリバー9SA4」は、毎秒10振動(36,000振動/時)という高い振動数と、最大約80時間のパワーリザーブを誇ります。巻き上げ時の心地よい感触と音にもこだわって設計されており、パワーリザーブ表示機能も備えました。また、ケースバックはシースルー仕様となっており、巻き上げ時には、豊かな装飾とともに、セキレイをモチーフにした特徴的な「こはぜ」の動きを鑑賞できます。

ケースには、通常のチタンよりも硬く傷つきにくい「ブリリアントハードチタン」が採用されており、上質な輝きを放ちます。ケースサイズは横38.6mm、厚さ9.95mmと、コンパクトかつ薄型で、快適な装着感のために重心が低く設計されています。
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1本目にふさわしい定番モデル「SBGR317」

SBGR317は、ヘリテージコレクションに属する、ケースサイズ40mmの自動巻メカニカルモデルです。放射仕上げのブラックダイアルが特徴で、汎用性に優れた、引き締まった表情を見せています。ケースデザインは、存在感と高級感を備えながらも飽きのこない、グランドセイコーらしいスタンダードなスタイルを踏襲しています。

ケースはステンレススティール製で、サイズは直径40mm、厚さ13mmです。ねじロック式リュウズによって日常生活用強化防水(10気圧)を備えており、耐磁機能も確保されています。シンプルながら高級感があり、実用性も確保された本作は、グランドセイコーの1本目にふさわしいモデルと言えるでしょう。
搭載するムーブメントは、メカニカル自動巻3Days「キャリバー9S65」です。約72時間(約3日間)のパワーリザーブを備えており、シースルーバックからは、MEMS(メムス)製法によって生まれた精緻な部品が、時を紡ぐ動きを鑑賞できます。
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まとめ
グランドセイコーの9Sメカニカルムーブメントは、「世界最高峰の腕時計をつくる」という揺るぎない信念、長年培われた高度な時計技術、そして熟練職人の情熱によって生み出されています。その歴史は高精度への飽くなき挑戦の連続であり、その特徴は先端技術と伝統技能の美しい融合にあります。
9Sメカニカルを搭載したグランドセイコーの機械式腕時計は、単なる時を刻む道具ではなく、所有する喜びと満足感を与えてくれる、まさに芸術品と言えるでしょう。
この記事の監修

- 資格:日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
担当ブランド:Grand Seiko、NORQAIN
腕時計販売店ハラダのオンライン担当。
腕時計の撮影、オンライン上でのマーケティング全般を担当。
最新のトレンドからクラシックなモデルまで、幅広い腕時計の情報を提供し、特に日本の腕時計ブランドであるグランドセイコーの魅力を発信することに注力。グランドセイコーの精密な技術と美しいデザインについて詳しく紹介し、時計の選び方や魅力を伝える事に生きがいを感じている。